オリーブの有機栽培農家が教えるオリーブを無農薬で育てる方法
家庭で育てているオリーブに農薬を使わないことのススメ
オリーブは本来害虫が少ない樹木です。
しかし日本では、ベトナム戦争で枯葉剤として開発された有機リン系農薬やミツバチを殺してしまうことで問題になっているネオニコチノイド系の農薬をオリーブの害虫を殺す農薬として使用しています。これらの農薬はヨーロッパなどの先進国では既に使用が禁止されるか近々禁止される予定と言われており、自然環境への負荷が高く、小さなお子様がいる家庭では取り扱いに注意が必要です。
農家と違って家庭で育てているオリーブはその木や実を楽しむためのものだと思います。虫がとにかく嫌いということであれば仕方がありませんが、ご自宅の庭やベランダに四季の虫たちがやってくることも含めて楽しむことができる方には、無農薬でのオリーブ栽培をおすすめしています。
もちろん、虫たちの中にはオリーブの葉や実を少し食べる虫もいるとは思いますが、自然の中で一緒に生きている者同士少しくらい大目に見てやってください。大目に見れないのは唯一、何年も大切に育てたオリーブを枯らしてしまうオリーブアナアキゾウムシだけです。そのオリーブアナアキゾウムシからオリーブを守る方法をご紹介します。
オリーブを無農薬で育てる仲間が一人でも増えてくれることを願って!
2018年8月
2021年5月一部修正
小豆島の有機オリーブ農家 山田典章
実際の畑の動画を20:30~28:00頃にご覧いただけます。
NHKワールド JAPAN FROM ABOVE~空から見た日本~中国と四国の旅
目次
- オリーブは害虫が少なく育てやすい?
- 農薬をどうしても使用したい害虫はオリーブアナアキゾウムシくらい
- 農薬を使わない害虫の防除方法
- 農薬を少しでも減らしていく最初の1歩
- まだまだその生態が謎の虫オリーブアナアキゾウムシ
オリーブの害虫リスト
木を食べる虫たち
1.オリーブアナアキゾウムシ:オリーブを枯らす最も手ごわい害虫。
2.コガネムシ:地植えに木ではほぼ無害。鉢植えで大量発生することあり。
3.コウモリガ:散発的に発生するが枝先の樹勢が弱まる程度。
葉や実を食べる虫たち
5.ハマキムシ:大量発生することあり。葉だけでなく実も食べるやっかいもの。
6.スズメガ:大食い。見つけたら捕るで十分。
1.オリーブは害虫が少なく育てやすい?
日本で多く栽培されているミカンやリンゴなどと比較するとオリーブは、比較的病害虫に強い果樹です。その理由は、オリーブの葉や実に含まれるオレウロペインなどの渋みや辛味が強いポリフェノールを虫や鳥たちが嫌うため。しかし、この渋みを好むハマキムシや、渋くない幹や根を食べるゾウムシやコガネムシなどもいて、場合によっては大きなダメージを受けることがあります。
2.農薬をどうしても使用したい害虫はオリーブアナアキゾウムシくらい
オリーブを食べる害虫の中でも特に大きな脅威となるのはオリーブアナアキゾウムシ。国内のオリーブ生産の9割以上を占める小豆島でも過去、多くの先輩農家がオリーブアナアキゾウムシと格闘し、たった1年で数百本のオリーブの木が枯れるような被害に度々合ってきました。そのため小豆島では農薬を使わないでオリーブを栽培することは不可能と言われています。しかし、毎年数百匹のオリーブアナアキゾウムシを自宅で飼育し、その生態を調べることで当園は、オリーブに農薬を使用しない栽培方法を確立し、2011年には国内で初めて有機JASに認定されました。
3.農薬を使わない害虫の防除方法
この記事では、自宅でオリーブを栽培しているひと向けに、オリーブの最大の害虫であるオリーブアナアキゾウムシの生態と農薬を使用しない防除方法を紹介します。また、ゾウムシ以外のオリーブの主な害虫の生態と防除方法についても知っていることを書いてみました。ちなみにゾウムシの次に問題になる実を食べるハマキムシも少し詳しく生態を書いています。
4.農薬を少しでも減らしていく最初の1歩
日本でオリーブに一般的に使用されている有機リン系のスミチオンは、その環境への負荷や人間への安全面の脅威などからヨーロッパなどの先進国では既に使用が禁止されています。また、ミツバチを殺し人間の子どもへも影響が懸念されているネオニコチノイド系の農薬も世界的には禁止の方向に向かっています。農家も害虫から農作物を守る他の方法があれば農薬は使用したくありません。しかし、農薬を使わず全ての害虫を手で捕り続ける労働を農家に強いることは更なる離農の原因にもなります。ルールを守った農薬の最小限の使用により日本の農産物が支えられています。将来的には、現在より安全性が高い農薬の開発や、またIT技術などによる人間の労働の代替などの革新もあると思われます。そのような時代に向けて、まずは数千本のオリーブの木を栽培することを仕事として生活の糧にしている農家ではなく、自宅でオリーブを楽しむひとたちから農薬を使用しないオリーブの育て方が広がっていくのではないかと期待しています。
5.まだまだその生態が謎の虫オリーブアナアキゾウムシ
オリーブを育て始めて10年の間、1匹のオリーブアナアキゾウムシも殺したことがありません。捕まえたゾウムシは、捕まえたら自宅で持ち帰り大切に飼っています。ずっとオリーブアナアキゾウムシと暮らしてきました。そのお陰で少しずつですがゾウムシが性格が分かってきました。しかし、全部ではありません。まだまだ分からないことが沢山あります。もし、この記事を読んで共感していただけましたら、一緒にオリーブを無農薬で育ててみませんか。そして、新しい発見がありましたら、ぜひコメントを記入して、皆に教えてください。
1.オリーブアナアキゾウムシ
1.生態
【交尾】
交尾中のオリーブアナアキゾウムシ。交尾が始まると数日は交尾したまま離れない。雌が下で雄が上。個体差はあるが、1回の交尾で20個前後は受精している模様。ちなみにオリーブアナアキゾウムシは縄張りは持たず、彼らが好きそうな場所に群れでいることもある。
【産卵】
雌のオリーブアナアキゾウムシがオリーブの根元に口吻で穴を空けている。口吻を繰り返し木に押し付けることで徐々に穴が深くなっていく。
オリーブアナアキゾウムシの口吻によってオリーブに空いた穴。1mmくらい。穴が開いたら卵を穴に産み付ける。
オリーブアナアキゾウムシを捕まえた瞬間にポロリと生まれた卵が指の先に落ちる。雌のゾウムシは卵を1日もしくは2日に1個ずつバラバラに生んでいく。つまり、ウミガメみたいに一気に数十個を産み落とすのではなく、ニワトリみたいに毎日生んでいく。これ、ゾウムシの幼虫を捕まえる上では知っておくべき大切な生態。
オリーブアナアキゾウムシの卵を顕微鏡で見た写真。オリーブアナアキゾウムシの卵は1mmくらいで、ほんのり黄なりの白で楕円型。
【幼虫】
オリーブアナアキゾウムシの幼虫。甲虫類の典型的な容姿。触るとくねくねし柔らかい。
オリーブの木を食べて徐々に大きくなっていく。卵から生まれたばかりで1㎜くらい。蛹になる前くらいになると1㎝を超えてくる。ちなみに、これは1本の木から捕獲した幼虫。大きい幼虫より小さい幼虫を捕獲する方が断然難しい。
【蛹】
1cmを超えて成虫と同じサイズになったら間もなく蛹になり羽化を待つ。真っ白できれいな蛹。
【成虫】
この写真のゾウムシのサイズは左の小さいのが体長12mm。右の平均的なゾウムシ17mm。サイス的には最小で1cm~2cm超。ゾウムシのサイズというのは幼虫時代に決まるので、左の個体は幼虫のときの食生活が極めて貧しかったのだろうと推測される。
オリーブアナアキゾウムシの幼虫はオリーブを食べて生きています。では、オリーブのどの部分が好きだと思いますか?葉と実と枝を用意します。
オリーブアナアキゾウムシを投入します。
徐々に枝に集まり始めます。
2日後の様子。まずは、枝の樹皮を食べます。樹皮が無くなったら実を食べます。葉は食べません。人間が食べてみても、葉っぱ渋みが強くて舌先が痺れます。実は葉ほど渋みはありませんが、それでもまあまあ渋いです。でも樹皮は全く渋くありません。そうオリーブアナアキゾウムシの好物はオリーブの葉っぱではなくてオリーブの樹皮です。
ちなみに、ゾウムシの飼育箱にオリーブの木を入れると・・・。
オリーブアナアキゾウムシは、樹皮だけきれいに齧ってしまいます。オリーブつるつる。
オリーブの枝が不足したときはカブトムシやクワガタ用の昆虫ゼリーを与える。実際に目撃したことはないけど、山に暮らすオリーブアナアキゾウムシは案外、いろんな木の樹液を舐めて生きながらえている可能性もありそう。
オリーブアナアキゾウムシが最も活性が上がっているときの歩行速度です。いつもはゆっくりしか動かないゾウムシですが本気を出せば割と素早く動けます。畑でゾウムシを地面に落とすと、このスピードで逃げられ取り逃がすことがあるで要注意。実験結果では平均的なゾウムシの歩行速度は時速30m前後です。
小豆島のオリーブ農家の先輩たちに聞いてもどうしても分からなかったことの1つにオリーブアナアキゾウムシは飛ぶか?という問題があった。飛ぶという人もいれば飛ばないという人もいて賛否両論。飼育箱の中のゾウムシをいつものように見ていた6月初旬頃。蒸し暑かったので窓を開けて外気を取り入れていると飼育箱から羽音が聞こえる。見るとゾウムシが飛び立っては蓋に当たって落下していた。ゾウムシは飛ぶんだということを知ったときの感動は今でも忘れない。ゾウムシは蒸し蒸しとする夏の夜になると盛んに飛びます。
とても稀にではあるが赤いオリーブアナアキゾウムシが存在する。これまで千匹くらいゾウムシを捕まえてきたが2匹だけいた。ただし、飼っていたら徐々に普通の茶黒に変わってしまった。
2.防除方法
【ゾウムシの幼虫の見つけ方】
最もスタンダードな幼虫が食害したときに出てくるオガクズ上の糞。これを目印に幼虫を見つける。幼虫の8割は株元から10㎝以内のところに集中する。
オガクズ状の糞が出てこないこともある。このように黒い染みが出始めると、樹皮の下に穴が空いていることがある。
黒い染みを頼りにドライバーで掘り進めるとやはり2匹いた。
実際にゾウムシの幼虫をマイナスドライバーで捕獲している動画です。まずオガクズが出ている一番上あたりにあるオガクズの出口をドライバーで押さえながら見つける。次に穴を空けて幼虫が木を食い進んでいった方向に穴を広げていき穴の一番奥にいる幼虫を掻きだす。
これがオリーブアナアキゾウムシの幼虫の動き。茶色い頭に白い体。くねくねと動きオリーブの幹の柔らかいところを食べ進んでいく。
【ゾウムシの成虫の見つけ方】
ゾウムシが居る場所には偏りがある。1番、多くて見つけやすいのは木の根元。2番目は地面から1m以内にある木の又や支柱の接合部、3番目は地面に近い横に伸びた枝。
赤い①;成虫を最も見つけやすい木の根元
赤い②;成虫が最も多く留まっている下枝の底
青い①;幼虫が最も多く潜む木の根元
青い②;幼虫が次に多く潜む木の又もしくは支柱の接合部
この株元に1匹ゾウムシが隠れています。見つけられますか?
根元のスキマにいるとゾウムシの模様と木の肌の模様が同じに見えるので注意。木肌が粗くなりがちなネバディロ・ブランコなどは丁寧に見ていく必要がある。
冬がそろそろ終わりゾウムシが動き始める前にやることは株元の草を刈ってやること。このままにしておくとゾウムシが根元にずっと居て産卵し続けるが、見つけることができない。
柔らかいハコベが覆っていたので手で丁寧に抜いていく。根まで抜くので、長い間草刈りをしなくて済む。
ちなみに根元まで枝が覆っているとゾウムシを見つけにくいので剪定した方がいい。
根元に次に多いのは木の又で陰になっているような場所です。主幹から主枝が分かれていくような場所は要チェックです。
枝にぶら下がっているときは鼻を下に向けているこのナマケモノポーズをしていることが多い。でもこのナマケモノポーズのゾウムシを見つけるのは難易度高し。加えて、そっと近づいて下に手を添えて捕らないと、ポトリと落ちて行方不明になることも多々ある。
ちなみにオリーブアナアキゾウムシは数年生きる。越冬するときは枯れた樹皮の下とか根元の落ち葉の中などにいることがあるので落ち葉が根元を覆うっている場合は片づけるのが無難。
オスとメスの見分け方。お腹の部分が少し違う。オスは少しベージュのサシが入っている。メスはサシは無く真っ黒。30体くらい見てみたら、やはりメスのお腹は真っ黒で、オスにはベージュのサシが入っていた。ただし、お腹が真っ黒なオスが少数だがいた。正確には、お腹にサシが入っていればオス。お腹が真っ黒ならば概ねメス、でもオスのときもたまにある。ゾウムシを見つけてお腹が真っ黒ならメスなので、木に卵を産み付けられていると考えたほうがいい。オスならセーフ。
3.もしかしたらゾウムシの天敵候補のみなさん
オリーブの根元にムカデがいることがある。ムカデは畑の食物連鎖の中でも最強クラスでスズメバチあたりと渡り合うくらい。ムカデの飼育箱にゾウムシを入れると食べようと襲いかかるが、ゾウムシの殻が硬すぎるのか今のところ、食べてしまうのを見たことがない。飼育箱ではない実際の自然の中ではどうしているのか?もしかしたらゾウムシの天敵候補のオニムカデ。
オリーブアナアキゾウムシと同じ夜行性のヤモリ。動いている昆虫を、ぱくりと丸のみするのだが、今までオリーブアナアキゾウムシを食べている場面に出くわしたことはない。
食虫植物に捕まったオリーブアナアキゾウムシ。ハエトリソウはオリーブアナアキゾウムシを捕まえてくれる。しかし、ゾウムシは基本的にオリーブの木の上にいるので地面に生えているハエトリソウに捕まることはあまりない。
4.オリーブアナアキゾウムシに似てるけどそうでないゾウムシなのでそっとしといて
スグリゾウムシかな?サイズはオリーブアナアキゾウムシとほぼ同じ。だけどフォルムが丸くてかわいい。
五円玉の中にいるのはバラゾウムシ。オリーブ畑でバラも有機栽培で育てている。この小さいゾウムシにバラの花や新芽が枯らされてしまう。もし、オリーブアナアキゾウムシがこんなに小さかったら無農薬はお手上げだったと思う。オリーブアナアキゾウムシ大きくて良かった。
同じくオリーブ畑で育てている有機アーモンド。そのアーモンドの実に卵を産み付けているモモチョッキリゾウムシ。このゾウムシは昼行性で、どんどん飛んでアーモンドにやってくる。1本の木に数十匹付いていることも。ちなみに、このゾウムシのせいで毎年、アーモンドの実が数千個全滅し続けている。オリーブアナアキゾウムシを殺したことはないけど、モモチョッキリゾウムシは捕ったらすぐに首をチョッキリしてしまう。飼わずの殺してしまうから毎年やられ続けている気もする。
オリーブアナアキゾウムシに囲まれたマダラアシゾウムシ。山際に植えてあるオリーブに紛れ込んでいることがある。もちろんオリーブに卵を産みつけたりはしないので即解放。
ハスシカツオゾウムシ。ぱっと見のフォルムはオリーブアナアキゾウムシに相当似ていて間違うこともある。オリーブアナアキゾウムシより心持ち長細い。
オジロアシナガゾウムシ。サイズはオリーブアナアキゾウムシとほとんど一緒でパンダ柄も少し似ているけど、本物のパンダみたいにまん丸です。葛が生えると増えてくる気がします。
5.ゾウムシのこともっと知りたい!好き嫌い実験リスト
- ゾウムシは日本酒好き?
- ゾウムシは石灰の砂漠を超えるか?
- ゾウムシをコーヒーに入れると死ぬらしい?
- フェロモントラップ実験
- ゾウムシホイホイ実験
- ゾウムシの致死水温
- ゾウムシが冬眠から目を覚ます温度
- ゾウムシは音は聞こえているのか?
- ゾウムシの歩行速度は?
- ゾウムシは飛ぶか?
- オリーブの根元を覆う最適な素材は?
2.コガネムシ
左の丸いのがコガネムシの幼虫/右は幼虫を食べるエンマムシ
1)生態
春~秋に発生し、成虫は飛んでオリーブの木にやってきます。葉を食害することもありますが被害はありません。土に産み付けられた卵が孵化し幼虫がオリーブの根を食べます。
2)防除方法
地植えのオリーブの根も食害しますが、それでオリーブが枯れることはありません。無視しましょう。
鉢植えなどに沢山、卵を産み付けられて幼虫が孵化すると根をどんどん食べていきます。木が弱ってきた場合の原因の1つにコガネムシの幼虫が考えられます。鉢を外し土の中に幼虫が沢山いる場合は、土ごと変えてしまいます。残念ながらダメージは大きいので枯れてしまうこともあります。決定的な防除方法はありませんが、腐葉土が多すぎると卵を産み付けられる可能性が高まります。表面までたっぷり腐葉土で覆うことは控えたほうがいいでしょう。根を沢山食べられてから農薬を使っても効果はありません。あきらめて手で捕ってください。
もし、オリーブに成虫がやってきているのをたまたま発見したら捕殺しましょう。ブイブイとも呼ばれます。
これも緑色のコガネムシ。葉を食べてます。模様がなく顔が小さいです。形で覚えましょう。
ちなみにこれはハナムグリ。白い斑点が目印。幼虫は腐葉土を食べるので無害。受粉を手伝ってくれています。できればそっとしておく。
これはカナブン。カブトムシなんかと同じで樹液が好きです。顔が四角なのが特徴です。光沢に高級感があります。オリーブにはただ立ち寄っただけなので遊んで帰ってもらいます。
3.コウモリガ
コウモリガの幼虫に食害されたオリーブの幹
1)生態
成虫は主に秋頃畑の上にやってきて飛んだままランダムに卵をまき散らす。土の中で越冬した卵は春に孵化し、春先は雑草を食べて過ごす。晩春頃にはオリーブの枝に登ってきて、幹の中にもぐりこみ幹の中身を食べ、オガクズを綿状の糞が外に排出され幹を覆った状態になる。
2)防除方法
飛んでいる成虫は捕まえることはできません。卵も草を食べている幼虫も見つけられません。
オリーブの枝に綿状の糞が出てきたら、それを外すと出てくることもありますが、概ね穴の中にいるので針金などを突っ込んで潰します。
オガクズで作った綿状の糞が枝に巻かれるように付いているのが目印です。
しかし、幹の固い部分にL字に入り込んでいることもあり、針金やドライバーで掻きだすことができないこともあります。そういう場合は被害が最小に済むように祈るだけで放置しています。食害されたところから上の部分が多少弱る程度ですので、木が育っていると被害は軽微です。苗木などの小さい木だとダメージが大きいこともありますが、大量発生することはないので、基本的には、針金で潰せなかったら、あきらめても被害は大きくなりません。
4.その他(木と木の根を食害するその他の害虫)
木や木の根を食害する害虫にはカミキリムシやセミ類、カイガラムシなどもいます。
1)カミキリムシ
カミキリムシの幼虫はテッポウムシと言われ日本の多くの果樹の害虫です。特にオリーブを好む訳ではなく、たまたまオリーブに卵を産み付ける場合があるらしいのですが、実はこれまで10年間でテッポウムシの被害に合ったことはありません。幼虫が木に入ったらオガクズ状の糞が出るのはゾウムシと同じですのでドライバーで掻きだすか針金で潰すかすることになります。
2)セミ
夏になるとオリーブの木にセミの抜け殻を多く見かけます。また成虫のセミがオリーブの木に口吻を突き立てて樹液をしっているもの見かけます。幼虫も成虫もオリーブの樹液をすっているようですが被害はありません。夏の風物詩としてそっとしておきましょう。
ちなみに、この穴がセミが飛んで行った後に空いていた口吻の跡。しっかり穴が空いている。
3)カイガラムシ
まれに白いカイガラムシがオリーブの樹皮に群生することがあります。樹皮を吸っているようですがオリーブが弱るまではいかないようです。しかし、気持ちがいいものではありませんので、どうしても嫌な場合はタワシなどでゴシゴシこそげ捕ってしまいます。手袋でこすってもある程度は落ちます。
5.ハマキムシ
1)生態
オリーブの葉を巻きながら食害するハマキムシはハマキガの幼虫。マエアカスカシノメイガ、チャハマキ、マダラメイガ、の3種類が小豆島のうちの畑では確認されています。このうち、マエアカスカシノメイガは秋に大量発生することがあり、オリーブの葉だけではなく実まで食べるため警戒しておく必要があります。
マエアカスカシノメイガ
これは幼虫。気温が高い晩春は透き通るような緑色がきれい。年に2回、春と秋に大量発生するやっかいものです。(小豆島では2013年から春の大発生は観測されていません。)
普通はくるりと巻いた葉の中にいて葉や実を食べる。春と秋、人間にとって快適な季節に大量発生することがある。気温が高くなる夏になると畑からいなくなる。
黄緑色の柔らかい新芽とオリーブの実が大好物。新芽を沢山吹く若木は大量発生すると葉が全部茶色になるまで食べられる。
ちなみに、オリーブも負けたままではない。芽吹きが強いので春に食べられても秋には横から新しい脇芽が生えてくる。大量に発生しなければ、ダメージはゼロではないけど、自然にリカバリーされていく。
秋の発生が最もやっかいで実も食害する。さすがにこうなった実を人間は食べられない。
残念ながらハマキムシに食害されて使えなくなったオリーブの実。被害がひどいときには1~2割ぐらいが被害を受ける。ここまで大切に育ててきた実を最後の最後に食べられるので精神的なショックも大きい。
これが成虫。白い羽の先が赤いのでマエアカスカシノメイガ。
左下の白い発泡スチロール状のものがハマキムシの卵。綿状のもので卵を多い天敵に食べられないようにしている。卵を孵化させてハマキムシの卵を確認してみた。
2)防除方法
防除方法は大きく分けて2つあります。1つはできれば草生栽培、オリーブの周辺に草を生やすことで、ハマキムシを食べる天敵を増やすことができます。。幼虫のハマキムシは美味しいのか色んな天敵が食べてくれます。しかし、ベランダで鉢植えで栽培している場合などは草を生やす場所はないので、基本的にはもしハマキムシがいるのを見つけたら手で捕って潰します。ハマキムシは葉や実を食べますが木は食べないので木が枯れることはありません。でも、観葉植物としては葉が茶色に枯れて汚く見えるので、枝先にある葉が巻いていて茶色になってくるようでしたら、葉を開いて中からハマキムシを取り出しましょう。それともう上級者向けにもう1つ効率がいい方法がある。それは卵を産む成虫を捕まえること。1匹捕まえると数百匹の幼虫を捕まえることになるので、効率がいい。
最もハマキムシやハマキガを食べてくれるのはクモの仲間。こんなに小さなハナグモがオリーブの葉に卵を産みにやってきたマエアカスカシノメイガを捕まえて食べてしまう。
アリもハマキムシが大好物。ちなみに地面にハマキムシを落とすと、ほぼアリたちに食べられてしまいオリーブの木に戻ることはできない。潰すのが嫌な人は、そっと捕って草むらにポイと投げるだけでもいい。
クモ、アリに続いての天敵はアシナガバチ。オリーブの枝の間をふわりふわりとホバリングしながら餌となるハマキムシを探す姿をよく見かける。見つけると、その場で肉団子にしてから巣に持ち帰っている。なのでアシナガバチはオリーブに巣を掛けても駆除しないようにしている。人間が巣に近づき過ぎないようすれば刺される心配はない。
ハマキムシの卵を襲う益虫アオムシコバチ。このコバチはハマキムシに卵を産みつけて、孵化した幼虫がハマキムシを身体の中から少しずつ食べてしまうらしい。なかなかハマキムシの気持ちになると恐い虫。
最も手っ取り早い防除方法は手で捕る。春夏に若木で大量発生した場合は天敵たちが増える前に、新芽のほとんどを食べつくしてしまうので、その場合は、巻いた葉を見つけては、ひたすら手で捕る。ちなみに、ピーク時は1日千匹以上を捕る。一度数えてみたが千匹を超えたところで無心になり数えるのを忘れてしまった。ちなみに、そんな日の夕方には手が緑色になってしまう。
沢山のハマキムシを潰していると、甘い草のようなハマキムシ特有の香りがしてくる。その匂いに釣られて僕の周りをクロスズメバチが旋回し始めるので、そっと手を差し出すと手乗りクロスズメバチの出来上がり。手の上で肉団子を作っている。
ちなみに、ズボンにはいつのまにか匂いに釣られてアシナガバチが僕にもくれ状態。
ハマビロカマキリもやってきた。みんなハマキムシ大好き。虫に囲まれて幸せな気分に浸れる。
巻いている葉以外の目印に黒い糞がある。小さな糞を見つけたらそこにはハマキムシがいる。
糞は大切なサイン。葉を開いてみると小さいハマキムシが沢山。ちなみにハマキムシは縄張りはないみたい。沢山が一緒にいることもある。
冬、気温が下がるとハマキムシの中心が茶色になってくる。
気温が低下すると食べたものを消化しきれなくなるのが原因みたい。真冬になると何も食べなくなりじっと春を待つ。ちなみに体がある程度大きくなった死なずには越冬して春になったら活動を再開する。
チャハマキ
これはチャハマキ。春夏秋気温に関係なく散発的に発生する。3種類の中では一番大きい。大量発生することはないので基本的には捕殺しないで問題なし。
チャハマキの幼虫を羽化させてみた。これが成虫。ほとんど畑で見かけることはない。
マダラメイガ
これがマダラメイガの成虫。1cmくらいのとても小さい蛾。寒さに弱く夏を中心にオリーブ畑にやってくる。しかし、体が小さいので葉を食べる量が少なく発生も散発的なので基本的には幼虫をいちいち捕まえる必要はない。
ちなみにこれはマダラメイガの亜種。マダラメイガは何種類かいるよう。ただどちらにせよ成虫は小さく動きがすばやいので捕まえることはとても難しい。
マダラメイガの卵。マエアカスカシノメイガの卵は白のホイップ状だが、マダラメイガの卵は茶色の綿毛状になっている。見つけたらこそげ落とすか、葉ごと取って地面に落としておく。
6.スズメガ
スズメガの幼虫。これはまだ小さめ。
大きいもので10cmくらい。捕まえようとするとぐっと枝を掴んで離れない。無理に引きはがすとぐりんぐりん暴れて少々気持ち悪い。
1)生態
スズメガは気温が徐々に高くなってく晩春の頃から秋まで発生します。大食いでが、メスは卵をあちこちにばら撒くようにして生みつけるので集中的に1本の木が食害されません。そのため被害は軽微に留まります。ただし、沢山葉を食べるので、見つけたら捕殺したほうがいいでしょう。
2)防除方法
まず成虫は動きが早いので捕まえることはできません。幼虫を捕まえます。見つける方法は2つあって、一つは枝先の葉が上からきれいになくなっていると犯人はスズメガです。もう1つは、黒くて特徴的な糞を目安にして見つけます。
赤い矢印の先が食害された跡。枝だけ残しきれいに葉が無くなっています。ちなみに、この枝は生きているので、数か月するのまた脇芽が出て葉が生えてきます。
これがスズメガの幼虫の糞。小さなウサギの糞のようで、近づいて見ると手榴弾のような模様がついている。
糞はスズメガの真下に丸く散っていることが多い。糞を見て、どのように幼虫を見つけるのかを書いておきたい。
幼虫の糞から幼虫の場所を推測する視点は3つ。
- 糞の大きさで幼虫の大きさをある程度推測できる。小さい糞は小さい幼虫、大きい糞は大きい幼虫。
- 糞が分散している場所を丸く囲むと概ねその中心の真上にいる。(枝振りや風などでズレあり)
- 糞が分散している円が小さいと低い枝、大きいと高い枝にいる。(理由は抵抗と距離の関係みたいなこと)
まずは食害されている葉を探す。特徴は、新芽も旧芽も差別なく食べる。ハマキムシのように食べ散らかさず1枚の葉を全部食べたら、その隣の葉に移る生真面目な性格。これは葉を食べた後に、枝まで食べきっている。こういう葉のどこかにいるのだ、あとは丹念に探す。ちなみに裏技一つ。どうしても見つからない場合はいそうな枝をゆっくり揺すってみる。大きいスズメガは重さがあるので、スズメガが捕まっている枝だけ周りの枝よりその重さでゆっくり振られる。振幅の動きが違う枝があったらその枝を集中的に見る。
いた!枝から引き剥がそうとしても、しっかり掴んでいて取りにくいくらい。スズメガは、そのへんに投げても帰ってきてしまうので、がんばって潰すこと。
□
文と写真 山田典章
オリーブ専業農家。香川県小豆島の山田オリーブ園園主。1967年佐賀県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、会社員時代の約20年間に保育園事業などの6つの事業に携わる。2010年に小豆島に移住し、子どものときに好きだった虫捕りが毎日できる有機オリーブ農家になる。好きなものは虫と本と日本酒。オリーブ栽培としては初の有機JASに認定される。山田オリーブ園ではオリーブや柑橘類の栽培、加工、販売を行う。
著書 これならできるオリーブ栽培 ~有機栽培・自家搾油・直売~
(出版社コメント)
オリーブをうまく育てるには? 経営として成り立たせるには? ~栽培から自家搾油、販売まで著者の経験を詳しく解説!~
手間いらずで儲かる新品目として注目されるオリーブ。しかし、「木が枯れてしまった」「何年たっても実がならない」「オイルの搾り方がよくわからない」といった声も。
本書では、脱サラで新規就農し、日本で初めてオリーブ栽培の有機JASを取得した著者が、確実に実をならせるための栽培のコツや病害虫対策、小規模な自家搾油所の作り方と搾油方法、ネット通販などのノウハウを丁寧に解説。
とくに、日本のオリーブ栽培で最大の難関となるオリーブアナアキゾウムシ対策は必見。昆虫少年だった著者が観察と実験を繰り返して、明らかにしたその生態をもとに、農薬を使わなくても、効率よく確実に被害を防ぐ方法を紹介。
まだ木が小さく実の収量が少ない時期の貴重な収入源になるオリーブ茶の作り方や、苛性ソーダを使わない安全な実のアク抜き法、ワイン漬けなどのおいしい実の加工品の作り方も多数紹介。
これからオリーブを栽培したい人、すでに栽培している人にも、ぜひおすすめの一冊。
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はじめまして。
最近庭木のオリーブが枯れてきている部分があり、元気がないなと感じていたところ、
息子が木に大量のゾウムシがいることを発見。
ネットで調べるとすぐにオリーブアナアキゾウムシによる被害と分かりました。
もう枯れかかっているし、切ってしまおうかと安易に言った私に9歳になる息子は大反対。
何とかオリーブを救いたいと言い出しました。
そこで、息子も協力することを約束して、昨日2人で50匹ほどのゾウムシを捕殺しました。
虫好きの息子はゾウムシを捕殺すること自体もとても悲しいと言っていましたが、オリーブのためにと頑張りました。
その後、このHPにたどり着き、山田さんは1匹も殺さずに飼っているということに驚きました。
また、別サイトで先に見つけた方法として、スミチオンも買ってきていたのですが、使用を思い留まりました。幹に開いた穴は15個近くありますが、すでにアリやダンゴムシの住処になっていたりします。
今後も薬剤を安易に使わずに、よく観察して成虫や幼虫を捕獲して対処していこうと思うのですが、
弱った木に対しては、回復させるために追肥や栄養を与える方法を何かしてあげた方がいいのでしょうか?
もし何かあれば教えていただけるとありがたいです。
追肥などはある程度元気になった後にしてください。その前にできることを以前のブログと動画に挙げていますので参考にしてみてください。
↓ブログの記事
https://organic-olive.com/olive-labo/6639/
ありがとうございます。
こちらの動画を見つけるのが後になっていました。
元気がないオリーブが実を付けていて、不思議に思っていた理由も分かりました。
不要な枝の剪定と、しっかり虫をとりきってからの土を被せる方法を試してみようと思います。
何とか元気になってくれますように!