山田オリーブ園 国内で初めてオリーブの有機栽培に成功しました。

1000分の1シルバーオリーブアナアキゾウムシを見落としてしまう脳問題

シルバーオリーブアナアキゾウムシ

 オリーブアナアキゾウムシの体の色は黒と茶色の斑模様。茶色というかベージュ、少し赤味がある明るい砂色。写真の上のゾウムシの色が典型的な色の組み合わせの斑模様。

 

 この10年間でオリーブアナアキゾウムシを千匹くらいは捕まえてきたと思うが、写真の下のシルバーがかった体色のオリーブアナアキゾウムシを今日始めて見た。千匹に1匹の割合と言ってもいいかもしれないシルバーオリーブアナアキゾウムシ。写真より実物は、もっと青みがかった銀色に近い。

 

 シルバーオリーブアナアキゾウムシは珍しいが、それ以上に、このゾウムシを見たときの感覚が不思議だった。というのも、シルバーゾウムシを視界に捉えてから3秒くらいはオリーブアナアキゾウムシと判断できず、あれ?何のゾウムシだろう?よくよく見たら体色がシルバーのオリーブアナアキゾウムシだ!と分かった。

 

 何が不思議かというと、僕は長い間、オリーブアナアキゾウムシを形、体のラインや頭部の突起などのシルエットだけで見分けていると思い込んでいた。つまり色は判断材料にしていないと思っていた。

 

オリーブアナアキゾウムシ

 というのも実際の畑のオリーブアナアキゾウムシは陰になっていることが多く、最も見やすい懸垂タイプでもこのような見え方が普通。逆光の中だったり、陰にいると色の識別は難しくなりシルエットだけで見ている。

 

オリーブアナアキゾウムシ

 最も隠れている場所として多い幹の隙間や木の又なども暗いので、こんな見え方。お尻の丸いラインとそこから出ている細い足の線でオリーブアナアキゾウムシと認識していて、やはり色はあまり見えていない。

 

 見えていないと思っていたのだが、それが違ったことが今日分かった。シルエットは完全にオリーブアナアキゾウムシなのに色が見慣れないシルバーだというだけで、オリーブアナアキゾウムシだと僕の脳は、すぐには判断しなかったということになる。ということは、僕の脳はゾウムシを形だけでなく、ほんの少ない色の情報も合わせて判断していたらしい。

 

 そこで、人間の脳が色や形をどのように認識しているのかネットで調べてみた。今のところ最も参考になりそうな論文が京大のこれ。

 

視覚認知において色と形の情報が統合される仕組み -位置に依存しない物体記憶の生成-

 

私たちは外界の事物を認識する際、色や形をバラバラの特徴ではなく、ひとつの物体として認識していると感じています。しかし、視覚情報処理の初期段階では、物体を構成する各特徴は独立に処理されていることが知られており、物体特徴が脳の中で統合される仕組みは認知科学における未解明の問題の一つです。知覚においては、位置を共有する特徴が統合されると考えられていますが、統合された特徴が記憶の中で保持される仕組みは不明なままでした。

(中略)

テスト刺激が記憶刺激に含まれる色、或いは、形をどれか一つでも含んでいたか否かを、刺激位置とは無関係にできるだけ速く、正確に判断する課題を行いました。この時、テスト刺激が記憶刺激の色、形両方を含んでいる場合は、色、形の一方だけを含む場合よりも反応時間が速くなります。

(中略)

記憶の符号化時には位置を共有する特徴のみが統合される。統合された色と形は、記憶保持中に位置に関係なく利用できるようになる。つまり、視覚情報を記憶に符号化する際は、位置の共有によって特徴が統合されるが、記憶に保持されている間に位置に依存しない表現が生成されるということを示しています。

 

 難解だけど、参考になったポイント3つ。

  • 色と形の両方を含む情報の方が脳は早く認識する。
  • 脳は物体を色は色、形は形で別々に情報処理した後にまた統合し直して記憶している。
  • 記憶した後は、色は色、形は形でバラバラになっても認識することはできる。

 

オリーブアナアキゾウムシの色と形

 つまり①色と形が入った情報はすぐに脳がオリーブアナアキゾウムシと認識するけど、②色だけは脳が記憶している情報を探す時間が少しあって「あっオリーブアナアキゾウムシの模様!」とか、③形だけを見たら少し考えて「おっオリーブアナアキゾウムシを描いた絵だ!」と分かるということ。当たり前のことのようだけど、人間の脳は色と形を一緒に憶えがっているけど、一緒じゃなくても少し考えたら色は色、形は形で識別することができるということ。

 

 なので、いつもと違う色のオリーブアナアキゾウムシを見た僕の脳が、オリーブアナアキゾウムシだと判別するのに時間が掛かったということになる。

 

 今までは、オリーブアナアキゾウムシの生態ばかりを追いかけていたのだが、それを捕獲する人間側がどのようなメカニズムでゾウムシを見つけているのか、ということをこれまで完全に見落としていた。捕まえる対象のゾウムシを研究することとは別に、捕まえる主体である人間の視覚や脳の働きを知ることも使えるかもしれない。

 

 AIに画像認識させるAIゾウムシハンターも面白いけど、人間の脳の映像記憶能力を覚醒させたスーパーゾウムシハンターというのもアリか。覚醒までしなくていいけど、寝ぼけ眼で畑を見回ってもダメだろうということくらいは分かってはいるけど、夜明けが早い今頃の季節はなかなか厳しい。

 

 

文と写真 山田典章

オリーブ専業農家。香川県小豆島の山田オリーブ園園主。1967年佐賀県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、会社員時代の約20年間に保育園事業などの6つの事業に携わる。2010年に小豆島に移住し、子どものときに好きだった虫捕りが毎日できる有機オリーブ農家になる。好きなものは虫と本と日本酒。オリーブ栽培としては初の有機JASに認定される。山田オリーブ園ではオリーブや柑橘類の栽培、加工、販売を行う。

 

 

 

 

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