山田オリーブ園 国内で初めてオリーブの有機栽培に成功しました。

国産オリーブ栽培で大切にしていること7つ

オリーブを育てるうえで大切にしていること

寒霞渓 小豆島

 
会社を辞めてオリーブ農家になってそろそろ10年。オリーブを育てるうえで大切にしていることがある。それは、日本の小豆島ならではのオリーブオイルを搾りたいということ。オリーブオイルは今や国内の食卓で最も多く使われる油になっている。そのオリーブオイルのうち国産のオリーブオイルはたったの3%前後。ほとんどが外国のオイル。スペインやイタリアのオイルに対してたった3%の日本のオリーブオイルは何ができるだろうと考え続けています。その答えは、日本のオリーブオイルを搾ろう、ということ。オリーブオイルというのは国によって、生産者によって、畑によって、その年によって、品種によって、育て方によって・・・、その土地ならではの全く違った風味になる。世界のどこにもない日本で育った日本の森の香りがするオリーブオイルを搾るために、オリーブ栽培で大切にしている7つのこと。

 

実際の畑の動画を20:30~28:00頃にご覧いただけます。

NHKワールド JAPAN FROM ABOVE~空から見た日本~中国と四国の旅

 

国産オリーブ栽培で大切にしていること7つ

 

 

01.農薬は要らない

畑に生きるオリーブや草花、虫たちが豊かな小宇宙を継続させていくために命を殺す薬は使わない。

 

02.草花が覆う畑

畑を覆う草花たち。瀬戸内の豊かな自然に太古の昔から生きてきた四季の草花とともに、オリーブたちはこの島にたくましく根を張っていく。

 

03.土を育てる

オリーブは痩せた土でも育つというのは嘘だ。砂漠のような痩せた土でオリーブを育てるために沢山の化学肥料と水をやる農業から柔らかくて豊潤な黒土で木を育てる。

 

04.ゾウムシを殺さない

毎年何百匹のオリーブアナアキゾウムシを捕まえる。1匹も殺さず自宅で飼う。一緒に暮らすことでゾウムシの気持ちが分かってくる。

 

05.日本の四季をそのまま

日本の四季が日本ならではのオリーブの風味を生む。植物工場で育つ同じ味の野菜は要らない。春夏秋冬の季節そのままの味がするオリーブが育つ。

 

06.虫を集める

畑の中に豊かな食物連鎖を作る。多様な虫たちが暮らすことで、オリーブを食べる害虫を天敵の虫たちが食べてくれる。

 

07.オリーブと話す

365日、1本1本毎日話しかける。元気か?その日々の積み重ねの先に恵みがある。収穫の秋、実を与えてもらう人間はオリーブに感謝する。

 

  
 
 
01.農薬は要らない

畑に生きるオリーブや草花、虫たちが豊かな小宇宙を継続させていくために命を殺す薬は使わない。

6月 オリーブの花にやってきたカゲロウ

 

農薬を使わない理由は3つ。

 
 
1.小豆島の自然を受け入れてオリーブの個性を強くする

農薬は自然界に存在する虫や菌、草花を殺してオリーブだけを生かすための薬。小豆島の自然を排除せず、そのまま受け入れることで小豆島に根を張る樹木としての個性が木1本1本に強く現れてくる。

 
2.農薬を使わないとオリーブ自信が虫から実を守るためにポリフェノールを多く出す

オリーブの青い実を齧ると、あまりの渋さに何時間も舌が痺れるくらい。これはオリーブが虫や鳥たちから実を守るために作り出したポリフェノールの味。人間が渋く感じるように虫たちにとっても不味いようで、オリーブは自分の実は自分で守ろうとしている。農薬を使わないとオリーブは自分で自分の実を守ろうとして、渋みや辛味をより多く出し、それがオリーブ特有の風味を強くします。

 
3.ほとんどの先進国で禁止されている農薬は使わない

そもそも虫が好きだから。個人的な理由ですが、もしかするとこれが一番大きな理由かもしれない。オリーブでよく使われるスミチオンといった有機リン系の農薬は、元は米軍がベトナム戦争で枯葉剤として開発した生き物全てを殺しつくす化学兵器。オリーブの害虫は少ししかいないのに、その数匹の害虫を殺すために畑で生きている何億、何千億の命を消してしまうことはやめたいと思う。ちなみに有機リン系の農薬はヨーロッパなどの先進国のほとんどで人間にも有害なので使用が禁止されています。

 
 
※農薬を全て否定するつもりはありません。うちの畑では使わないが、それはそのまま食べることができない渋みが強いオリーブは何とか、がんばれば無農薬で実を収穫することができるから。しかし甘いイチゴや桃、柔らかい葉物野菜などは、オリーブと違って自然の中で薬を使わずに育てることが極めて困難なのも事実。また農薬は労働時間を大幅に削減してくれる。ほとんどの農業は長時間、屋外での肉体労働が強いられている。しかし、専業農家として食べていける農家は一握り。今の日本で、消費者のために安価で安全な食べ物を継続的に提供していくためには農薬はなくてはならないものだということ。農薬にも色々あり、進歩し続けている。枯葉剤はそろそろやめるべきだと思うが、害虫にだけピンポイントに効く環境負荷が小さい農薬の開発と使用により、未来の農業は有機農業と慣行農業の線引きがなくなっていけばいいと思う。

 
※有機農業を始めたいと希望される新規就農者の方が畑に見学にくることがある。オーガニック、有機農業と言った言葉はなかなか良いイメージがあって憧れる。自信もそうだった。なので、これからも有機農家の仲間が日本にどんどん増えることは楽しみ。ぜひ一緒にチャレンジしていきたいけど、もし何年かやってみて、どうしても収穫が難しい場合には農業を止めるのではなく農薬を使うことも選択肢に入れてみたらどうだろう。できるだけ量を少なくするなどの使い方の工夫もできるはず。農業はビジネスでもある。労働時間に対する収入が見合いそうにない場合は続けることはできない。収入を期待しない趣味だったら好きな方法でいくらでも、しかし農家は経済合理性も大切だと日々感じている。

 
 
 
02.草花が覆う畑

畑を覆う草花たち。瀬戸内の豊かな自然に太古の昔から生きてきた四季の草花とともに、オリーブたちはこの島にたくましく根を張っていく。

 
 

草生栽培でオリーブを育てています。草生栽培とは畑の一面に草を生やして農作物を育てる方法で、丈が高い果樹などでは下草に日の光が遮られることがないので、昨今多く取り入れられている栽培手法。草生栽培を取り入れている理由は3つ。

 
 
1.草花も命がある小豆島の自然の一部

まず畑に生えてくる雑草と呼ばれる草花も命であり小豆島の自然の一部だということ。小豆島の自然をできるだけそのまま畑で再現するために、当たり前のことだけど除草剤を使って全ての草花を枯らし尽くすことはしたくない。オリーブと同じ命を多く育む畑にしておきたいというのが第一で、何よりそこで畑仕事をする人間にとっても四季の花が咲いてきれいです。

 
2.害虫を食べてくれる益虫が増える

草花は多様な虫を集める。砂漠のような土が露出した畑では虫たちは暮らせない。四季を通じて畑を覆ってくれている草花の中で多くの虫たちが暮らしている。そして、アリやハチ、カマキリやクモなど虫を食べる天敵の虫たちがオリーブの実や葉を食べるハマキムシなどの害虫を食べてくれている。差別するようであまり好きな言葉ではないけど、そういった農作物を食べる害虫を食べてくれる虫たちのことを益虫と呼ぶ。

 
3.土がゆっくりと肥えていく

多くの草花と虫たちは土を育てる。春先に畑を覆うオオイヌノフグリは晩春には静かに枯れて土に横たわる。ダンゴムシやミミズ、そして土中の菌などがゆっくりと草花や虫たちを分解して黒々とした土を作る。その土は、また次の春にスミレを育てオリーブの栄養に。太陽のエネルギーと雨水を取り込んで植物は有機物を作り続ける。人間は何もしなくても、植物によって土はゆっくりと肥えていく。何千年もの間、植物が生きた寒霞渓の森の土はふかふかと温かく柔らかい。

 
 
※草生栽培と放置栽培(そんな言葉があるかどうか分かりませんが)は違います。自然をできるだけ多く畑に受入れたいけど、何もせずそのままにしていると藪になりオリーブは日本固有の草木に枯れされてしまう。昔、畑だったところが森になりイチジクとか柿、梅の木がポツンと残っているのを見かけることがある。日本固有の果樹は日本の気象環境にあっており人の手がなくても生き残る木があるけど海外からやってきたオリーブは、人が世話をしないとあっと言う間に枯れて消えてしまう。オリーブの最大の天敵であるオリーブアナアキゾウムシから木を守るために草丈の調整、つまり定期的な草刈りは必要。残念ながら草生栽培は草を生やさない栽培よりも手間は掛かります。

 
※その昔、カバープランツという失敗をした。雑草を抑えるために、芝などで畑を覆う方法、覆う植物がカバープランツ。オリーブの木の下一面に芝が覆っているので公園みたいで、とてもきれいだった。しかし、草丈が低く同じ種類の植物だけがあるカバープランツは多くの虫が暮らせない。また土地に根差した雑草のように多くの有機物を作り出すこともできない。ある意味、緑色の砂漠のような状態。また別の機会に8種類の芝やヘアリーベッチやシロツメクサなどの緑肥の試行錯誤と失敗の記録を書きたいと思う。どのカバープランツがオリーブに合っているのかを散々試してみたが、結果的はどれでもなく、そのへんに生えている雑草が正解だったという間抜けな話し。

 

 
 
03.土を育てる

オリーブは痩せた土でも育つというのは嘘だ。砂漠のような痩せた土でオリーブを育てるために沢山の化学肥料と水をやる農業から柔らかくて豊潤な黒土で木を育てる。

小豆島 有機オリーブ畑

 
 
小豆島は真砂土と言われる花崗岩が風化してできた土で覆われている。広島を中心にした瀬戸内海一帯に広がっているこの土は水はけが良い。地中海の痩せた土にオリーブを植えているイメージが強いこともあり、小豆島ではこの真砂土にオリーブを植えている。しかし、この土をそのまま使う場合は年間を通して大量の化学肥料と大量の潅水が必要になる。痩せた土に必要最低限の窒素、リン酸、カリといった栄養と水をどんどん入れて木を大きくし、実を大きくするという栽培方法。もちろん、その方法で小豆島のオリーブ栽培はうまくいっているのだが、弱点もある。痩せている土中に直接栄養分が届けられるため根の張りが弱くなる。もともと根の張りが浅いオリーブは台風のたびに多くの木が倒れてしまうので強固な支柱で支えなくてはならない。もう1つ大雨が降ると畑の表土が流される。小豆島は平地がほとんどないためオリーブ畑は段々畑などの傾斜地にある。堆肥を入れた肥えた土も、もろく崩れやすい土の性質により、台風などの度に流されてしまう。流される度に栄養を補い続けている。

 
 
そこで畑を草で覆う草生栽培にし土を育てることで3つのメリットがある。

 
1.オリーブの根がしっかりと張る

畑に生えている有機物がゆっくり増えていくことで、土が肥え団粒化して物理性が改善する。化学肥料のような栄養はないのでオリーブの木は自分で栄養を探しに行かなければいけないため、自然にオリーブの根は多くなり台風などの倒木の被害が最小限に抑えられる。ちなみに支柱は草刈りや収穫などの作業の邪魔になり危険でもある。この支柱を木がある程度育つと早めに外すことができる。

 
2.水保ちが良くなる

草花によって土が覆われているので、太陽の光が直接地面に当たらず地面からの水分の蒸発が抑えられる。また植物自体も水を蓄えており、夏の乾季など草が生えていないオリーブの木の葉や実が萎れても、草生栽培の畑の木は水分の張りが残っている傾向にある。

 
3.大切な表土が流出しない

肥えた表土が流れない。草花のびっしりと生えた根が崩れやすい根を掴まえて離さない。雨水が直接、土に当たらないので土が流れ出すこともない。せっかく時間を掛けて育てた有機物がたっぷりの土こそ農家の宝である。土が肥えたオリーブ畑では、オリーブ以外の野菜などもぐいぐい育ってくれる。

 
 
※雨が多く平野が少ないため傾斜地で果樹を育てる日本の農業では、草生栽培はこれからも広がっていくことは間違いないと思われる。植物工場のような建物の中で水溶液だけを使って農産物を生産している農家でもない限りは土は大切だと思っている。しかし、土を育てる農業は正しいが、時間が掛かる。言うは易し行うは難しの農業の典型のようなところがあって、痩せた土に草花を生やしただけでは超えるまでに十年近くの年月が必要になる。肥えて有機物たっぷりの肥えた土になるまでの間は、草花と果樹(オリーブ)の根が養分や水分を奪い合う。森の落葉を大量に運び込んだり、ミミズをばらまいたり、有用菌を植え付けたり、少しでも土を早く超えさせる方法は昔から提唱されているが、実際に実践するのは多くの時間とお金と忍耐が必要になる。

 
※正面から取り組むのでなく時間を少しでもショートカットする方法がないでもない。おじいさんやおばあさんが長年にわたり土を育ててきた畑を引き継ぐ、長い間草木が生い茂った耕作放棄地を借りる、お米を作らなくなった肥えて真っ黒になった田んぼの土をトラックに積んでもってくる、などの方法。少しずるい気もするが、運よくそういう畑でスタートすることができれば、その土を大切に引き継いだ方がいい。

 

 
 
04.ゾウムシを殺さない

毎年何百匹のオリーブアナアキゾウムシを捕まえる。1匹も殺さず自宅で飼う。一緒に暮らすことでゾウムシの気持ちが分かってくる。

オリーブアナアキゾウムシ

 
 
1.オリーブの有機栽培を阻む最大にして唯一の原因

オリーブアナアキゾウムシはオリーブの最もやっかいな害虫である。オリーブの実や葉を食べる害虫は他にもいるが、オリーブアナアキゾウムシの幼虫は木の幹を食べ木を枯らしてしまう。またネズミ算的に増えていくため、場合によっては1年で何百本の畑のオリーブが全滅してしまうこともある。何十年掛けて育てた木が枯れてしまうので、その損失はとても大きいと言える。オリーブにスミチオンなどの強い農薬を使う理由は、このゾウムシから木を守るのが目的である。逆に言い方をすると、農薬を使わずにゾウムシから木を守ることができれば、オリーブの有機栽培はそれほど難しいことではない。

 
2.日本固有のオリーブの害虫の生態は分からないことだらけ

10年前、農薬を使わずにゾウムシからオリーブを守る方法はないかとネットや過去の文献などを探したが、決定的な方法はどこにも見つからなかった。最も実践的な文献は日比谷の国会図書館に残されていた大正時代のゾウムシの生態と防除について書かれたものだった。しかし、探して手で取るということや、木の皮を幹に巻いてそこに隠れているものを掴まえる程度のことしか書かれていなかった。日本にオリーブが持ち込まれて、オリーブがどんどん枯れていくのでその原因を調べたら、見たこともないゾウムシであり、オリーブの木に穴を空けるのでオリーブアナアキゾウムシと名前が付けられた日本固有の虫、それがオリーブアナアキゾウムシ。

 
3.分からなければ飼って観察する

分からなければ飼って、その生態を研究するしかないということで、オリーブの木を植える前から島中のオリーブの木にいるであろうオリーブアナアキゾウムシを探し、見つけた1匹目から家に持ち帰り飼い始めることになる。毎年、自分の畑のオリーブや他人のオリーブにいるゾウムシを数百匹捕まえては飼ってきた。10年で2千匹以上のゾウムシを飼ってきた。長くても2年ほどで死んでしまうゾウムシだが、これまで1匹のゾウムシもこの手で殺したことはない。

 
同じオリーブが好きで、オリーブに食わせてもらっているもの同士であるオリーブアナアキゾウムシのその生態と防除方法について、そろそろ体系的に書いてみる予定。オリーブを日本で栽培している人たちの参考になれば幸いです。

 

 
 
05.日本の四季をそのまま

日本の四季が日本ならではのオリーブの風味を生む。植物工場で育つ同じ味の野菜は要らない。春夏秋冬の季節そのままの味がするオリーブが育つ。

冬のオリーブ畑

 
 
1.雨が少ない気候が幸いしオリーブの栽培が盛んになった小豆島

地中海一帯に自生していたオリーブの生態は、そのルーツとなる地域の気象に最も合っている。そのオリーブが栽培を目的として日本に試験的に持ち込まれたのは今から100年以上前の1908年のこと。香川、三重、鹿児島に植えられた苗木のうち、ここ香川県小豆島の木だけが育ち実の収穫に成功する。瀬戸内の晴天が多く少雨の気象が地中海の気候に近かったことが成功の要因だったと言われている。

 
2.高温多湿な日本の過酷な気候が香り高い小豆島のオイルを生み出す

気候に似ていると言っても地中海と比べると、雨は多く、冬は寒く、台風もやってくる。地中海から遥か遠い東の小島はオリーブにとっては過酷な環境であったと言える。その過酷な環境がゆえの風味がある。地中海の気候に近づけるのではなく、日本の気候そのままの中で育つからこそ日本特有の風味が生み出される。植物工場やビニールハウスのように、植物を外の環境から隔てない、そのままその中で育てるからこそ、オリーブは1年1年全く違った風味を持つことになる。雨が多い年は多い香り、冬が寒い年は冬が寒い香り。オリーブが立っているその土地その年そのままの風味がオリーブオイルに現れる。

 
日本のそして小豆島の四季そのままの風味を楽しめる、そんなオリーブオイルを作り続けたい。

 
※気候が合っていないことは決して有利なことではない。同じ労力で世話をしても収穫量が全く違ってくる。オリーブに合った地域では、燦燦と太陽の光が降り注ぎ、適度な雨が降り、気温も穏やかで、雑草のようにオリーブの種からオリーブの木が道端に生えてくる。日本では決して見られない雑木のようなオリーブが茂る光景。2つの選択肢が私たちにはある。何らかの人為的な方法でスペインの大農場のオリーブの自然環境に近づけて一粒でも多くの実を採るか、日本の自然環境をそのまま受け入れ工夫で凌ぎ、収穫量は少ないが日本ならではのオリーブオイルを作るか。正解はどちらとも言えないが私は後者を選ぶことにした。

 
※世界のオリーブには千種類以上の品種があると言われている。小豆島はこれまで、ミッション種、ルッカ種、マンザニロ種、ネバディロ・ブランコ種の4種のみを栽培してきたが、品種によって栽培の仕方や収穫の量、オイルの風味などが全く違っている。ここ数年、九州や関東など小豆島以外の国内でもオリーブ栽培が始まっており、小豆島では育ててこなかった海外の品種の栽培も盛んに行われるようになっている。香川県が独自に開発した炭疽病などの病気に強い品種なども数年のうちに栽培が始まる予定である。日本の気候に合った新しいオリーブの品種を最初に見つけるのは誰か、同業者の中での競争が始まっている。

 

 

 
06.虫を集める

畑の中に豊かな食物連鎖を作る。多様な虫たちが暮らすことで、オリーブを食べる害虫を天敵の虫たちが食べてくれる。

オリーブ畑 ハマキムシを食べるアシナガバチ

写真はオリーブの害虫、ハマキムシを捕まえて肉団子にしているアシナガバチ。

 
 
1.オリーブを食べる天敵たち

オリーブにはオリーブアナアキゾウムシ以外の害虫もいる。代表的な害虫は、オリーブの葉や実を食べるハマキムシ、それ以外にも大食漢のスズメガの幼虫や木を食べるコウモリガの幼虫、根を食べるコガネムシの幼虫などなど、渋みが強いオリーブを食べる変わり者たちが存在する。しかし、それらの害虫にはそれらを食べる天敵が存在する。

 

オリーブ畑のヒマワリとカマキリ

 
2.カマキリの卵を畑に置いておく作戦の失敗

栽培を始めた頃、ハマキムシを食べてくれる益虫カマキリを増やそうしたことがある。冬のうちにススキなどが生えている草むらにいきカマキリの卵を採っては自分のオリーブ畑に持ってくるということをした。しかし、カマキリは孵化するものの前年より増えた感じもしないで、いつのまにかいなくなってしまう。そこで、カマキリが暮らしやすい環境を作るために丈が高くて花が咲くヒマワリやアサガオを育ててみる。しかし、よく分からない。何年かして、畑全体に雑草を茂らせることにすると、いたるところにカマキリを見かけるようになる。カマキリの卵を持ってきた訳でもないのに。つまり、カマキリの餌となるような小さな虫たちが生きられる草むらが畑にできたことで、カマキリはどこからか勝手にやってきて増えていくということ。

 
3.食物連鎖の土台「畑を覆う草花」を整える

虫たちは単体で存在することはできない。草花があり、それを食べる草食の小さな虫がいて、その虫を捕食するハチやアリ、クモなどがいる。更にはそれらを食べるカエルがいて、ヘビがいて、イノシシがいる。人間ができることは、こういった食物連鎖でつながる生き物たちの環境そのものを整えること。オリーブ畑にいる多くの虫のほとんどは草むらにひっそりいて、オリーブの害虫でもなければ益虫でもない。しかし、そういった関係のない小さな虫たちが沢山いることで、人間が害虫を殺すために農薬を使わなくても、オリーブを食べる害虫が爆発的に増えることがなくなっていく。

 
有機農家ができることは、時間を掛けて、ゆっくりとその土地の風土で自然に生えてくる草花が育つ環境を整える手伝いをすること。何年かすると人間の手は徐々に必要になくなってくる。

 
 
※オリーブアナアキゾウムシは自然界の中にその天敵がほとんど存在しない稀有な存在。夜行性で固くてほとんど動かないオリーブアナアキゾウムシを食べる生き物がいないので食物連鎖に頼らず人間が天敵になるしかないのが現状である。

 
※食物連鎖による果樹の防除は完全ではない。若木のオリーブなど、あっという間にハマキムシに葉を丸裸にされることもある。そういうときは、ひたすら何千匹のハマキムシを手で潰す。葉も実も常に少しずつ虫たちに食べられても気にしないという心構えがない人には向かない。またハチに刺されても我慢すると言った忍耐も求められる。どうしても捕まえなくては困るオリーブアナアキゾウムシ以外は大目に見るというスタンスでこれからもいたい。

 

 
 
07.オリーブと話す

365日、1本1本毎日話しかける。元気か?その日々の積み重ねの先に恵みがある。収穫の秋、実を与えてもらう人間はオリーブに感謝する。

オリーブの見回り

 

 

 
1.オリーブは多くのことを教えてくれる

毎日、オリーブに話しかけていると、ほんの些細な変化に気づくようになる。葉の色つやや枝の伸び方、樹皮の色などちょっとした変化を見逃さない。木は人間のように話しかけてくることはない。だからこそ、毎日の観察は欠かせない。オリーブを観察するということはオリーブだけを見ることではなく、その回りの土の状態や草花の生え方なども、多くのサインを送ってくれる。

 
2.オリーブの個性に合わせた世話をする

オリーブはその1本1本で全く違った命であり性格の違いがある。同じ品種でも、植えられた場所やそれまでの時間の積み重ねによって、どんどん個性が現れてくる。個性が分かると、剪定の時に樹形以外の情報もイメージしながら枝に鋏を入れることができる。前年に実を沢山付けすぎた木、台風で根を痛めた木、全く実を付けずに葉ばかり茂らせている木、それぞれの歴史と個性に合わせて、剪定もできるし、実の収穫タイミングも決められる。何万本の木を機械で収穫していく海外の大プランテーションではできない日本人が得意なきめ細やかさを生かせる栽培方法である。

 
3.ゾウムシのチェックは1日1回

オリーブを毎日見て回る最大の理由はゾウムシのチェックにある。いつどの木にゾウムシがやってくるかが分からないので全部の木を毎日、見て回る必要がある。なので実際は、元気か?などと悠長に話しかけているのは暇なときだけ。しかしゾウムシのチェックをしながら、オリーブ全体の様子を観察し、心の中で一言話しかける時間はある。

 
 
※農家は割と忙しい。限られた時間を何に当てるかという作業の優先順位を常に意識していないと、あっという間に日が暮れる。春から夏は草刈りやゾウムシ捕りに追われ、秋は収穫、冬のオリーブは寝ている。ゆっくりと木を観察しながら話しかける時間は、オリーブではなく人間にとってこそ、貴重な贅沢な時間なのかもしれない。

 

 

文と写真 山田典章

オリーブ専業農家。香川県小豆島の山田オリーブ園園主。1967年佐賀県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、会社員時代の約20年間に保育園事業などの6つの事業に携わる。2010年に小豆島に移住し、子どものときに好きだった虫捕りが毎日できる有機オリーブ農家になる。好きなものは虫と本と日本酒。オリーブ栽培としては初の有機JASに認定される。山田オリーブ園ではオリーブや柑橘類の栽培、加工、販売を行う。

 

 

 

 

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これからオリーブを栽培したい人、すでに栽培している人にも、ぜひおすすめの一冊。

 

 

 

 

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“国産オリーブ栽培で大切にしていること7つ” への2件のフィードバック

  1. ハクサイダニを殺しても殺しても、毎年やられ、調べても、答えは、ない。そんなとき、ここに出会いました。ダイコンサルハムシ、アブラムシなどいろんな小さな虫に出会い、クモが捕食していることもわかり、自然の見方が同じだなと思いました。ビオラやカモミールなども雑草といっしょに育っています。雑草は、刈って鶏の餌。手伝いに来てくれたり、みんな食堂に卵野菜で応援したりなど、自然を通して、人と人が繫がっていくことが、一番大切だと感じています。私も考える理想のオリイブ園です。ハクサイダニについては、ネット以上に詳しく分かってきたので、兵庫有機農業研究会に出して役立たないかなと、思っています。

    • 全くその通りだと思います。雑草と呼ばれる草花が虫たちの住処になり、枯れて菌や虫の餌になり、その糞や腐食した有機物がまた土を肥やす、そんな循環に入るとそこでは農作物含め色んな植物が豊かに育っていきます。

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