農家に必要な資格とは
私は20年ほど会社勤めをした後、小豆島に移住し農家になりました。
農家になろうと決めたときに最初に考えたことが5つあります。
1つめ
どこで農業をしようか?
2つめ
何を育てようか?
3つめ
お金をどうしようか?
4つめ
どうやって学ぼうか?
5つめ
必要な資格はあるのか?
「1どこで? → 小豆島で」
「2なにを? → オリーブを」
「3お金は? → 貯金で」
「4学びは? → 本で」
最後の5つめ
農家になって10年「必要な資格はあるか?」について書いてみます。
結論
農家になるのに絶対に必要な資格というのはありません。
学歴、職歴も不問です。
農産物を育てて収穫し誰かに売るというのが農家だとしたら、それができる人は誰でも農家になれます。
資格は不要な職業ですが、無いと非常に不便という資格や、あると便利な資格というのはあります。
無いと非常に不便な資格≒ほぼ必要に近い資格
それは自動車免許です。
うちの農園は自宅から車で10分ほどの距離のところに6つバラバラにあります。なので、自宅と畑が離れている農家は移動手段として自動車が必要になります。もし自宅の前に畑があるような恵まれた人でも農産物の出荷などの運搬に自動車は必要になります。自分が移動することと、農産物や農具の運搬に自動車が必要です。
また、多くの農家は田舎にあります。都会のように電車やバスなどの公共交通機関が十分ではありません。鍬を担いで電車に乗っているお百姓さんを見かけることなどめったにありません。農業以外の買い物などの日常生活でも、田舎は車の必要性が概ね高いです。自動車がないと、とても不便です。
ですので、これから農家になろうという人で自動車免許を持っていない人は、免許だけは取っておくことをおススメします。ちなみに農家で働こうと思っている人も同じです。農業を主としている会社は自動車の運転ができない従業員を雇いたくありません。
免許は可能な限りMT車免許=普通自動車免許がおススメです。AT限定免許ではダメとまでは言い切れませんが、なぜか軽トラなどの農家が使う車は未だにほとんどがマニュアル車です。軽トラの中古車などは、ほぼマニュアル車です。少しがんばってマニュアルの免許を取ってしまいましょう。
ちなみに、私がやっているオリーブ農家にとって一番必要な道具は軽トラです。
畑を整備するときの初期投資を大幅にカットできる資格というのはあります。
自動車免許ほど必要性は高くないですが、私は「大型特殊免許」を取得し「小型車両系建設機械の運転業務に係る特別教育」を受講しました。
大型特殊免許は畑の開墾で大きな力を発揮するユンボ(シャベルカー)を公道で運転するための免許です。取得には合宿免許で4日ほど掛かり費用は8万円前後だったと記憶しています。加えてユンボを操作するための「小型車両系建設機械の運転業務に係る特別教育」を受講する必要があります。学科1日、実技1日でした。費用は5万円くらいでした。
そのまま自分が作付けすることができるほ場を借りることができる場合はユンボは必要ありませんが、例えば荒れ地を開墾するとか、田んぼを畑に転換する場合などは大型重機が必要になります。土木業者に委託することは勿論可能ですが、自分でレンタルして重機を操作すれば初期投資を大幅にカットできます。
すぐには必要ありませんが、自治体などの支援を受けたい場合にお得な資格があります。
自治体に「認定農業者」に認定されることです。
農業の5カ年計画書を作成し管轄の自治体に提出、指導を受け認められれば認定農業者になります。費用は掛かりません。計画書の作成に2日、自治体との会議が数時間くらいです。
メリットは農業に関わる補助金の給付を受けるための条件になります。うちは搾油機の購入費の半額を補助してもらいました。その他、農協などに所属しなくても自治体からの情報も入手できるようになります。
補助金は受け取らない、情報も要らないというポリシーがある場合は不要です。
ちなみに、どこかの田舎に移住して農家になっても特に届け出などは必要ありません。なので、最近の若い新規就農者の方などは何もせずに農業を始めて続けている人たちも多くいます。しかし、農協の組合員になるとか認定農業者になるなどしないと、基本的にはパブリックは一切関知せず、支援もしません。支援不要!と決めていないのでしたら気軽に自治体に相談してみるのもアリかと思います。
農産物の栽培だけでなく加工製造までする場合に必要な資格があります。
「食品衛生責任者」の資格の取得と、うちの場合はオリーブオイルを搾るための「食用油脂製造業」や「菓子製造業」などの保健所の施設に対する許可が必要になります。
あくまでも加工製造をする場合です。また加工品を外部に委託する場合は必要ありません。自分で施設を所有して製造する場合に必要になります。
食品衛生責任者は受講料1,200円で1日の講習です。衛生管理はとても重要なことですが、資格の取得だけならとても簡単です。カンタンすぎてこんなので大丈夫か?と思うくらい。
ただし、衛生管理が杜撰で食中毒でも起こせば一発で信用を失い製造業を続けることは難しくなります。講習はカンタンですが、その後の実際の日々の衛生管理は大変です。
また、保健所による「製造業」の許可は手続きと段取りが大変です。保健所が定めた施設の設計、仕様のルールが厳格にあるため、施設を作る前に相談を始め分からないことは確認しながら施設を改修していくことになります。作ってしまった後に保健所の検査が入りNGが出ると営業できません。ここは面倒でも丁寧に相談しながら進めなくては後が大変です。
農家には必要ありませんが特殊な農家に必要な資格があります。
うちの場合は有機農家になるための資格です。有機JASに人も畑も加工所もそれぞれ認定される必要があります。
まずは1日の講習会で、有機農産物の生産行程管理責任者/有機農産物の格付担当者/有機農産物の小分け責任者/有機加工食品の生産行程管理責任者/有機加工食品の格付担当者/有機加工食品の小分け責任者/有機飼料の生産行程管理責任者/有機飼料の格付担当者、などの資格を取得します。ここはがんばって1日話しを聞けば大丈夫なので難しくありません。
大変なのは、有機農産物認定ほ場(畑の認定)/有機加工食品認定加工場(加工所の認定)を受けることです。最初に作成する資料は100ページを超えます。また毎年ほぼ同量の資料を作成し検査を受けなくてはなりません。
農薬や化学肥料を使用しないなどの栽培の制限も大変ですが、それとは別に検査用の書類作成に膨大な時間が掛かります。最初に畑の認定を受けるための書類の作成時間は2週間くらい、加工場も同じく2週間くらいパソコン仕事を覚悟する必要があります。
大変ですが、農家の自己申告「無農薬」との違いは外部機関の検査があるので販売するときに消費者からの信頼を得ることができます。信頼を得るために毎年10万円くらいの検査料を払い膨大な書類を作ります。それが見合うかどうかは農家それぞれの判断です。
有機JAS以外にも最近はGAP(農業生産工程管理)などの取得も推進されています。
これら以外にも専門知識が必要な場合は随時、資格の取得や講習の修了などを必要な場合、もしくは取得することで技術の向上などが見込めるものもあります。うちのようなオリーブ農家の場合は、民間の資格ですがオリーブオイルソムリエなどがそれに当たります。
また農産物や加工品の販売に必要な資格というものはありません。
ネットで通販、店舗での販売に必要な資格はありません。
最後に膨大な時間とコストを掛けたのに全く必要がなかった資格があります。
4年制大学の農学部を卒業した「農学士」。農学博士までなれば少しは役に立ったのかもしれませんが、大学を出るだけでは農業の役に立つことは残念ながら全くありません。
農業の実践技術を学ぶなら農業高校や農業大学校です。
農業の役には立ちませんが、大学では別のことを学ぶことができたので後悔はしていません。
最後に資格は必要に応じて取るものだと思います。ですので自動車免許以外は、困ってから必要な資格を取得すれば十分です。ちなみに資格の有無と農業の新規就農の成功には全く関係はありません。
【参考資料:山田オリーブ園資格・認定等取得一覧】
認定農業者/有機農産物認定ほ場(認定番号373241001)/有機加工食品認定加工場(認定番号373242001)/有機農産物の生産行程管理責任者/有機農産物の格付担当者/有機農産物の小分け責任者/有機加工食品の生産行程管理責任者/有機加工食品の格付担当者/有機加工食品の小分け責任者/有機飼料の生産行程管理責任者/有機飼料の格付担当者/食品衛生責任者/食用油脂製造業/菓子製造業/第一種銃猟狩猟免許/わな猟狩猟免許/農学士/オリーブオイルマスターミラー(搾油技術者)/オリーブオイルソムリエ/GAP講習修了
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文と写真 山田典章
オリーブ専業農家。香川県小豆島の山田オリーブ園園主。1967年佐賀県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、会社員時代の約20年間に保育園事業などの6つの事業に携わる。2010年に小豆島に移住し、子どものときに好きだった虫捕りが毎日できる有機オリーブ農家になる。好きなものは虫と本と日本酒。オリーブ栽培としては初の有機JASに認定される。山田オリーブ園ではオリーブや柑橘類の栽培、加工、販売を行う。
著書 これならできるオリーブ栽培 ~有機栽培・自家搾油・直売~
(出版社コメント)
オリーブをうまく育てるには? 経営として成り立たせるには? ~栽培から自家搾油、販売まで著者の経験を詳しく解説!~
手間いらずで儲かる新品目として注目されるオリーブ。しかし、「木が枯れてしまった」「何年たっても実がならない」「オイルの搾り方がよくわからない」といった声も。
本書では、脱サラで新規就農し、日本で初めてオリーブ栽培の有機JASを取得した著者が、確実に実をならせるための栽培のコツや病害虫対策、小規模な自家搾油所の作り方と搾油方法、ネット通販などのノウハウを丁寧に解説。
とくに、日本のオリーブ栽培で最大の難関となるオリーブアナアキゾウムシ対策は必見。昆虫少年だった著者が観察と実験を繰り返して、明らかにしたその生態をもとに、農薬を使わなくても、効率よく確実に被害を防ぐ方法を紹介。
まだ木が小さく実の収量が少ない時期の貴重な収入源になるオリーブ茶の作り方や、苛性ソーダを使わない安全な実のアク抜き法、ワイン漬けなどのおいしい実の加工品の作り方も多数紹介。
これからオリーブを栽培したい人、すでに栽培している人にも、ぜひおすすめの一冊。
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【その他】
こんにちは
神奈川に住んでいます。
農家の経験はありません。
家にあるオリーブの鉢植えに、毎年たくさんの実が付きます。
どうすることもできず、もぎ取って捨ててしまいます。
近所に作物を作っていない畑が点在しているのを見て、ここでオリーブが育たないものかと
考えるようになりました。
だいぶ安易な発想と思われるかもしれません。
一度小豆島をたずね、オリーブ農家の様子を見学したいと思います。
山田オリーブ農園さんは、見学者を受け入れていらっしゃいますか?
お返事お待ちしています。
すみません返信遅くなりました!昨年度から体験研修会を年1回開催しています。
https://organic-olive.com/news/3202/
今年も日程は未定ですが実施する予定です。よろしければそちらにご参加ください。
突然のコメント、失礼いたします。
農家の認定を受けない状態でも、農地を得ることは可能でしょうか?
先日、就農支援協会の方と面接をおこなったところ、農地法の関係で農家の認定を受けていないと、農地を借りることも買うことも出来ませんという説明を受けました。
なので、農家をやりたいと思っても、農地を得ることができないので、研修に2年かけることは絶対ですとのことでした。
そこで諦めかけていたのですが、山田オリーブ園さんの記事を読みまして、農家認定を受けなくても農地を得ることが出来るのかなと思い、コメントさせていただきました。
お手すきの際でかまいませんので、ご教授いただけますと幸いです。
認定農業者にならずに農地を借りることはできます。農地の所有者と直接交渉して必要に応じて契約書などを結べば農地は非公式にですが借りれます。ただし、自治体などの公共機関や農協などには認められていないので、そういったところからの支援は一切受けることはできません。また、そういった農地は、色々な条件的な問題が多い傾向にあります。買うことは更に難しいので、借りることはできなくもないですが農家として食っていくことを目標にしている場合は、ハードルは高いですが不可能ではありません。