オリーブ農家になるために必要なお金のこと
オリーブ農家になりたいという方からメールをもらうことがあります。
栽培に関する質問が多いですが、お金のことを聞かれることもあります。
私は40歳の時に会社を辞めて農家になろうと小豆島に移住しました。その時に分からないながらもお金の計算はしました。今もしています。
出ていくお金(家族の生活費、農業に掛かるお金)と入ってくるお金が毎年どのようになりそうか、うまくいかなかった場合、いつまでだったら引き返せるかなど。
うまくいくだろうと楽観的でしたが、家族を巻き込むので、うまくいかなかったときの想定もしていました。
瀬戸内の穏やかな島でオリーブに囲まれて暮らしていますが、これまであまりしてこなかったお金の現実について、メールへの返答という形で書いてみます。
下記メールは2019/02/05に受信した実際のメールをご本人の承諾を得て掲載しました。お名前は匿名にしています。
Title オリーブの新規就農や営農についてご教示いただきたいです。
山田オリーブ園 山田 典章 様
はじめまして、私、〇〇〇と申します。
突然のメールの送信、大変失礼いたします。
私は山梨県■■市に住んでいるのですが、オリーブ栽培に興味を持っております。■■市は日本でのも有数の日照時間が長く雨が少ない土地なので、オリーブの栽培敵地ではないかと考えています(冬季の低気温がネックになるとは思います)。オリーブの栽培については文献が少なく、ネットでの情報収集が主になっているのですが、南アルプス市でオリーブ栽培をされている方のブログで山田さんの有機オリーブ栽培を知り、ブログを拝見いたしました。ゾウムシの観察やコンパニオンプランツの実験など、非常に参考になる内容ばかりで、いつも参考にさせていただいております。現在、会社員をしているのですが、将来的には脱サラしてオリーブ栽培農家になりたいと思っています。ただ、まだ子供も幼いためまずは会社に籍を置きつつ苗木を植えて、兼業で営農に取り組むことを計画しております。現在、3品種の越冬試験をしつつ営農計画を作成しているのですが、実際に営利オリーブ栽培を行うにあたって初期投資がどの程度になるのかや収支計算など情報がほとんど入手できません。もし差し支えないようであれば、実際にオリーブで生計を立てておられる山田さんから初期投資やランニングコストなどについてご教示いただけたらと思いました。
質問
- 夫婦2人で営農できる規模(有機栽培だと山田さんは600本の規模でされているとのことですね)
- 初期投資の物品やコスト(漠然とした質問で申し訳ありません)
- 主なランニングコスト
- 搾油機の価格と搾油建物の大きさや搾油に必要な資材(初期ではなく将来的に必要になると思いますので)
- 瓶詰めの方法(機械?)
- その他脱サラ新規就農についてアドバイスいただけることがあれば
急なメールでずいぶんと図々しいお願いで大変恐縮なのですが、お時間がある時にでもご返信いただけると幸いです。それではご検討をよろしくお願いいたします。
6つの質問に返信します。
1.夫婦2人で営農できる規模
うちは農薬を使わず虫を全て手で捕っている関係で600本が限界です。しかし、畑が6つに分かれていて軽トラで移動しながら管理しているので、1か所に集約したら1,000本くらいは管理できそうです。ちなみに有機栽培でなく農薬を使う一般的な慣行栽培でしたら3,000本くらいまでやっている人たちがいます。
ちなみにオリーブを山梨で栽培する場合、生の実を農協さんなどに出荷することはできませんので、オリーブオイルや塩漬けの加工と販売も夫婦二人でやることになると思います。家事、育児や農作業以外の加工や販売、税務などの仕事の方に時間が掛かりますのでご注意ください。
2.初期投資の物品やコスト
オリーブ農家になるために必要な道具トップ10 という記事を以前書きました。
そこで必要な道具の大体の価格はこんな感じです。
1位 軽トラ→中古車だったので30万円
2位 草刈り機→3万円
3位 シャベル→5千円
4位 手押し車→もらいものなので無料
5位 剪定鋏→3千円
6位 ノコギリ→3千円
7位 長靴→5千円
8位 手袋→500円
9位 ハンマー→3千円
10位 三脚→2万円
番外編
11位 搾油機→一式400万円
12位 パソコン→中古なので5万円
13位 マイナスドライバー→500円
搾油機は収穫量が増えてからなので初期投資から外すと高いのは軽トラくらいです。ざっとですが私の場合の物品の初期投資は40万円くらい。
これとは別に、「農家に必要な資格とは」で書いた畑を整備するときの初期投資を大幅にカットできる資格について引用します。
自動車免許ほど必要性は高くないですが、私は「大型特殊免許」を取得し「小型車両系建設機械の運転業務に係る特別教育」を受講しました。
大型特殊免許は畑の開墾で大きな力を発揮するユンボ(シャベルカー)を公道で運転するための免許です。取得には合宿免許で4日ほど掛かり費用は8万円前後だったと記憶しています。加えてユンボを操作するための「小型車両系建設機械の運転業務に係る特別教育」を受講する必要があります。学科1日、実技1日でした。費用は5万円くらいでした。
そのまま自分が作付けすることができるほ場を借りることができる場合はユンボは必要ありませんが、例えば荒れ地を開墾するとか、田んぼを畑に転換する場合などは大型重機が必要になります。土木業者に委託することは勿論可能ですが、自分でレンタルして重機を操作すれば初期投資を大幅にカットできます。
ユンボの資格と合わせて50万円くらいです。ですので搾油機以外の初期投資はあまり掛かりません。
3.主なランニングコスト
ここはやり方によって全く変わります。私は可能な限りお金を掛けないで栽培をしています。例えばオリーブの支柱はもらいものだったり、そのへんに生えている竹を使ったりしているようにお金を掛けないことを楽しみとして農業(栽培)をしています。しかし、それでも例えば軽トラの維持費、保険、ガソリン代、草刈り機などの消耗品の買い替え費用、次々破られる防獣ネット、苗木代、有機JASの検査費、パソコン、スマホ関係の通信費などで、収穫が無く売り上げが無い年でも100万円くらいのランニングコストが掛かっています。
また収穫が始まると、収穫してもらうためのアルバイト代、製造コストなどが大幅に掛かるようになります。大まかには売り上げの7割くらいの経費が掛かります。つまり売り上げがあってもなくても100万円くらい、売上が立つと7割くらいが栽培と製造に掛かる費用になっています。慣行の野菜農家さんやイチゴなどのハウス栽培の農家さんと話しをすると、ここの費用の割合は農業の形態によって全く違うようで、あまり参考になりません。やってみるしかないというのが実際のところです。
新規就農者が見落とす最も大きなランニングコストは販売に掛かる費用です。例えば以前、百貨店さんからお声掛けいただいた時は売り上げの半分の卸値を提示されました。千円で売る商品でしたら500円で卸すということになります。原価割れしています。しかし、農家は百貨店やスーパーなどの小売りに比べて相当立場が弱いので利益がなくても売っていただくみたいなことが、普通にあります。ちなみにスーパーなどで非常に良心的なところでも卸値は7割くらいです。手元に少しでもお金が残れば御の字みたいなことになります。
うちは基本、全てネットの直販ですので販売コストは売り上げの1割くらいに押さえています。しかし、ネットで売るためには、それ相応のサイト運営のスキルが必要になるので得手不得手があると思います。私は毎日、パソコンを睨んでうんうん唸っています。オリーブアナアキゾウムシを捕まえる方がずっと楽であることは間違いありません。
小豆島はオリーブ生産が日本で最も盛んなのでオリーブの生の実を農協が買い取ってくれるという恵まれた地域ですが、自治体や農協のバックアップがない地域では、個人で栽培、加工、販売をする6次産業化が前提になります。私の実感では6次産業化で最もお金が掛かり難しいのは販売です。どうやって作ったものを売るか、そこがオリーブ農家として自立することができるかどうかの分かれ目になると思います。
ちなみに小豆島のオリーブ農家でも、専業の個人農家という人はほとんどいません。定年後に年金をもらいながらオリーブを育てているとか、定職に付きながら趣味プラスアルファで畑仕事をしたり、柑橘類を主として一緒にオリーブを育てているというような個人がほとんでです。会社の場合は、醤油や土木、運輸などを本業にしている会社が副業としてオリーブ事業をしているところが多いです。オリーブを主している会社の場合は、海外のオイルを売って利益を確保したり、観光業で補填したりすることが多く、国産のオリーブオイルの栽培、加工、販売だけで成立している企業はあまりありません。これ以上は書けません。ご自分で判断してください。自分で選んだ仕事で稼ぐために皆、努力しています。
4.搾油機の価格と搾油建物の大きさや搾油に必要な資材
オリーブの加工の中でもメインになるオリーブオイルの搾油に関わる部分の費用の概算です。
ここも搾油機のサイズや建物の状態、購入先などによって大きく変わるので、あくまでも大まかな目安として参考にしてください。
搾油所の費用概算
・搾油機と周辺機器1式の値段 400万円
※搾油機・洗浄機・濾過機・貯蔵タンクなど
・建物の改修費 300万円
※搾油室(ウエット)と充てん室(ドライ)の広さは約60㎡
個人のオリーブの専業農家である規模の参考にしてみてください。これ以外にテーブルや椅子、棚などの家具類は別途掛かります。うちは別途、自治体から搾油機購入の補助金を半分いただきました。
7.瓶詰めの方法(機械?)
漏斗と測りを使って手作業でオイルを充填しています。個人の農家が作る量でしたら手作業で十分です。
6.その他脱サラ新規就農についてアドバイスいただけることがあれば
オリーブを主業とした個人の専業農家で食っている人というのは残念ながら、ほとんどいません。目指している人は徐々に増えてきましたが、うまくいかなかった場合のことを考えておいた方がいいかもしれません。
うまくいくメドが立つまでは〇〇さんが言う通り会社員を続けながらトライするとか、農業次世代人材投資資金を5年間受給するとか、オリーブ以外でその地域の専業農家が生産している農産物を育てるとか、担い手がいなくなった果樹農園引き継いで後々オリーブを始めるとか、色んなことが考えられます。私は貯金の額を睨んで、引き返せるギリギリの期限までやって、ダメなら戻ろうということだけは決めていました。
以上、参考になれば幸いです。
□
文と写真 山田典章
オリーブ専業農家。香川県小豆島の山田オリーブ園園主。1967年佐賀県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、会社員時代の約20年間に保育園事業などの6つの事業に携わる。2010年に小豆島に移住し、子どものときに好きだった虫捕りが毎日できる有機オリーブ農家になる。好きなものは虫と本と日本酒。オリーブ栽培としては初の有機JASに認定される。山田オリーブ園ではオリーブや柑橘類の栽培、加工、販売を行う。
著書 これならできるオリーブ栽培 ~有機栽培・自家搾油・直売~
(出版社コメント)
オリーブをうまく育てるには? 経営として成り立たせるには? ~栽培から自家搾油、販売まで著者の経験を詳しく解説!~
手間いらずで儲かる新品目として注目されるオリーブ。しかし、「木が枯れてしまった」「何年たっても実がならない」「オイルの搾り方がよくわからない」といった声も。
本書では、脱サラで新規就農し、日本で初めてオリーブ栽培の有機JASを取得した著者が、確実に実をならせるための栽培のコツや病害虫対策、小規模な自家搾油所の作り方と搾油方法、ネット通販などのノウハウを丁寧に解説。
とくに、日本のオリーブ栽培で最大の難関となるオリーブアナアキゾウムシ対策は必見。昆虫少年だった著者が観察と実験を繰り返して、明らかにしたその生態をもとに、農薬を使わなくても、効率よく確実に被害を防ぐ方法を紹介。
まだ木が小さく実の収量が少ない時期の貴重な収入源になるオリーブ茶の作り方や、苛性ソーダを使わない安全な実のアク抜き法、ワイン漬けなどのおいしい実の加工品の作り方も多数紹介。
これからオリーブを栽培したい人、すでに栽培している人にも、ぜひおすすめの一冊。
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