ブレンドされた国産オリーブオイルの問題点と可能性について
1.当園の[2012/08/03]に書いたブログ記事より
オリーブ産業の課題「ブレンドという表現」 - オリーブ栽培のこと
あまりに暑いので家に帰ってきてしまった。この暑さで草木も虫も動きを止めているので少しさぼって小難しいことでも書いてみる。
小豆島町長塩田氏が岡大の学生が書いた「小豆島のオリーブ産業の課題」というレポートを読んで記事をアップしている。
一部、とても気になる部分があったので、長文だが抜粋する。
小豆島で販売されているオリーブオイルは、外国産のオリーブオイルに小豆島産のオリーブオイルをブレンドしたものが主流です。小豆島産100%は高価であり、生産量も限られているからです。大半の観光客は、高い小豆島産100%のオリーブオイルではなく、小豆島産オリーブをブレンドした外国産のオリーブオイルを購入されています。 小豆島での生産適地には限りがあり、生産拡大に制約があるとすれば、小豆島産オリーブオイルがブレンドされていることで、オリーブオイルとしての価値が高くなり、消費者の納得感が得られることが必要です。外国産のオリーブオイルと小豆島産オリーブオイルをブレンドしたオリーブオイルを、小豆島のオリーブオイルとしての独自の価値、魅力があるものにしなければなりません。
小豆島産のオリーブオイルは、量が少なくて高いので海外産のオイルと混ぜて販売しているが、そのようなブレンドオイルを売る場合は消費者が納得する魅力あるものにしなければなりません。
つまり、このような主旨のようです。
塩田町長は、多くの改革を実行した立派な町長だけど、今回のこの町長のような考えは、オリーブ業界の現状の課題だと思う。
どのような理由を付けても混ぜることは、島のオリーブ産業の発展につながらない。
島のオイルは島100%のオイルとして売る。
海外のオイルは、海外のおいしいオイル100%として売る。
混ぜたオイルを小豆島のオイルみたいな感じで売っていると、消費者は必ず離れていくことになる。僕は、日本の自然環境で育った日本のオリーブオイルを100%そのまま届ける。それが日本人に必要とされないようなら必要とされるような努力をし続ける。それでも受け入れられないならオリーブの販売は辞める。
2.その当時の当園の状況を振り返る
今から6年前の自分の記事。
新規就農して3年目のこの頃、オリーブの実が収穫できるようになり、島内の会社に搾油を委託して自分の畑で採れたオリーブオイルの販売を始めた頃。
今では笑い話だが、この前年に収穫した実を全部集めて、島内の会社に搾油を委託したら、搾油したオイルを腐らされてしまうというちょっとした事件が起こった。故意に腐らされたのか単なるミスだったのかは、未だに分からないが、搾油代は返金するからと笑われて腐ったオイルを手渡されたときのことは、今でもときどき思い出す。
そして、この記事が書かれた翌年の3年目。沢山の実が収穫できるようになってきたので、他の信頼できる複数の会社に相談を始めていた。
うちは有機栽培の実だったので、搾油機の中で他の有機栽培ではない畑で採れた実と混じらないように、朝一に搾ってもらうことにことにするのだが、オリーブの一番最初の搾油は機械に実が持っていかれて搾油率が低くなる。でも、混ざらないことが優先されるのでこの際仕方ないという調整をしている最中に、ある事実が判明する。
有機JASの認定機関から有機JASの認定工場で搾らないと有機オリーブオイルという表示はできないという事実。
結局、この年は有機JASの表示はあきらめてオイルを搾り、可能な限り有機JASの農産物として販売できる生の実を出荷することにした。
つまり、混ざる(ブレンド)ということに過敏になっていた年だったこともあり、
「僕は、日本の自然環境で育った日本のオリーブオイルを100%そのまま届ける。それが日本人に必要とされないようなら必要とされるような努力をし続ける。それでも受け入れられないならオリーブの販売は辞める。」
と、その頃のうまくいかない状況が打破できないまま、逆切れしていた。
言っていることに間違いはないのだが、最後の「オリーブの販売は辞める」という弱音がこの当時の心境を何より物語っている。
しかし、このときに何が何でも自分の搾油機を買うぞ、と決心したのも事実。今思えば、とても大切なターニングポイントになっている。
3.自分でオリーブオイルを搾るようになってブレンドの誘惑を知る
搾油機を買おうと決意してから4年後の2016年に、ようやく搾油所にできる建物をご厚意で借りることができ、内装工事を行い、イタリア製の搾油機を購入することになる。
自分でオリーブオイルを搾るようになって分かったことがある。
うち畑では、年間を通して潅水せず、化学肥料でなく有機肥料を少量しか与えないし、虫に食われる実も多いので、1本の木から5kgくらいの実しか収穫できない。
香りを少しでも残したいので、油分率が低い青い実を低温で搾ることもあって搾油率は7%に届かないくらいなので、1本の木から採れるオイルは5kg×7%=350g。
350gというとスーパーに置いてある大手オリーブオイル会社の中くらいのビン1本分。
量が少ない、という問題。
イコール食っていけないという現状。
ここで再掲。
小豆島で販売されているオリーブオイルは、外国産のオリーブオイルに小豆島産のオリーブオイルをブレンドしたものが主流です。小豆島産100%は高価であり、生産量も限られているからです。大半の観光客は、高い小豆島産100%のオリーブオイルではなく、小豆島産オリーブをブレンドした外国産のオリーブオイルを購入されています。 小豆島での生産適地には限りがあり、生産拡大に制約があるとすれば、小豆島産オリーブオイルがブレンドされていることで、オリーブオイルとしての価値が高くなり、消費者の納得感が得られることが必要です。外国産のオリーブオイルと小豆島産オリーブオイルをブレンドしたオリーブオイルを、小豆島のオリーブオイルとしての独自の価値、魅力があるものにしなければなりません。
6年前に引用した文章を簡単には否定できない心境になっている。
例えば、国産の高いオリーブオイルに、同じ量の安い外国産のオリーブオイルを混ぜるだけで、売り上げが2倍になる。
逆に国産のオリーブオイルより安く売ることもできる。
しかし、それでも小豆島がオリーブオイルのトップブランドであり続けるためには、現在のゆるい日本の加工食品の表示法では規制されていなくても、全てのオイルの原産国(栽培・搾油した地域もしくは国)を表示することが、消費者の信頼を得ることになると信じている。
ブレンド、混ぜることは必ずしも悪いことではない。
混ぜるならどこの国のどこの畑で育ったオイルの実をどれだけ使用しているということを、きちんと説明することが必要になる。
小豆島ブランドを守りたいなら。
実際に小豆島の大きなオリーブオイルの会社でも、現在はこの動きが広がってきており、このオイルは高価だけど小豆島産100%、このオイルはイタリアの〇〇農園で栽培から搾油している、ときちんと説明している。
つまり、原材料の産地を明らかにして、消費者に選んでもらうことが重要であるということ。
ちなみに、当園のことに限定すると、ブレンドはしない。
4.ブレンドしない理由
正確に書くと、ブレンドしないではなく、できない。
例えば、良くないブレンドとして、割と頻繁に行われているのは、粗悪なエキストラバージンオリーブオイルとは言えないオイルに、香りが強かったり色が濃いオイルを混ぜることで、ごまかして量を多く生産する方法。そのことをキチンと説明して低価格で販売しているならば、悪いことではないが、高品質な国産のオリーブオイルを製造している会社なら、やらない方法。
こういった方法は当園では、できないではなくて、やらない。
それに対して良いブレンドというものがある。
単品種で搾ったオイルの風味を把握した上で、より複雑で香り高いオイルに仕上げていくためのブレンド。
オリーブオイルは、品種、栽培方法、潅水、土、気象、収穫方法、収穫時期、実の熟度、搾油時間、搾油温度などの搾油方法などによって、全く違う風味のオイルが生まれる。
【高品質なオリーブオイルをブレンドする方法】
- 単品種毎に搾った高品質なエキストラバージンオリーブオイルを搾る。
- 風味が安定するまで保管する。
- クセが強くないバランスがとれた短品種のオイルをベースのオイルとする。例えば小豆島だとルッカ。
- クセが強い単品種のオイルを様々な比率で配合して風味を確かめる。小豆島だと早摘みのミッションやネバディロ・ブランコ。
- 配合の比率を変えて風味を確かめてみる。
- 場合によっては3品種目を加えて同じくバランスを確かめる。
ひたすら、この配合を繰り返し、総合的に理想とする風味が複雑で豊かなブレンドされたエキストラバージンオリーブオイルを作り上げる。
これが理想の良いブレンド。
毎年、当園でも小豆島の4品種をベースに海外の希少品種を加えてブレンドを試してみるが、これまでのところ、単品種のオイルを超えるブレンドを作り出すことはできていない。悪くないブレンドオイルができることはあるが、あくまでもまあまあの風味であって、単品種を混ぜるほどの完成度のオイルを作ることが、うちでは、まだできていない。
なので、ブレンドしないではなく、できない。
ちなみに、世界中の単品種のオイルを買い集め、ブレンドを繰り返すことで、比較的短期間で高品質なブレンドオイルを作り出すことはできるかもしれないが、それは農家の仕事ではなくブレンダーの仕事なので、やらない。
まずは、世界中の多くの品種のオリーブオイルを知り、理想的なイメージを持ち、その品種の苗木を植え、育て、収穫して、ブレンドする。
「言うは易く行うは難し」とはこのことだと、つくづく思う。
そもそも日本での栽培実績がない品種のオリーブが、大きく育って実を付けるまでに少なくとも5年は掛かる。
5年掛かっても収穫できればいい。ほとんどの実績がない品種は、多雨多湿な日本の気象環境の中では育たなかったり、育っても実をつけなかったり、実が付いても炭疽病などの病気になったりして、収穫できないことの方が多い。
うちでも8年掛けて、レッチーノやフラントイオ、オヒブランカなど12品種を育てているが、何とか収穫までできるようになった海外の品種は今のところ2品種のみ。
新しい品種を開発できないか実生種を300本育てているが実が付いたのは3本のみ。
時間は掛かる。
死ぬまでに完成させられるか分からないが、だからこそ、いつかは自分のブランド名を冠した小豆島産エキストラバージンオリーブオイルを作りたいという夢を持っている。
□
文と写真 山田典章
オリーブ専業農家。香川県小豆島の山田オリーブ園園主。1967年佐賀県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、会社員時代の約20年間に保育園事業などの6つの事業に携わる。2010年に小豆島に移住し、子どものときに好きだった虫捕りが毎日できる有機オリーブ農家になる。好きなものは虫と本と日本酒。オリーブ栽培としては初の有機JASに認定される。山田オリーブ園ではオリーブや柑橘類の栽培、加工、販売を行う。
著書 これならできるオリーブ栽培 ~有機栽培・自家搾油・直売~
(出版社コメント)
オリーブをうまく育てるには? 経営として成り立たせるには? ~栽培から自家搾油、販売まで著者の経験を詳しく解説!~
手間いらずで儲かる新品目として注目されるオリーブ。しかし、「木が枯れてしまった」「何年たっても実がならない」「オイルの搾り方がよくわからない」といった声も。
本書では、脱サラで新規就農し、日本で初めてオリーブ栽培の有機JASを取得した著者が、確実に実をならせるための栽培のコツや病害虫対策、小規模な自家搾油所の作り方と搾油方法、ネット通販などのノウハウを丁寧に解説。
とくに、日本のオリーブ栽培で最大の難関となるオリーブアナアキゾウムシ対策は必見。昆虫少年だった著者が観察と実験を繰り返して、明らかにしたその生態をもとに、農薬を使わなくても、効率よく確実に被害を防ぐ方法を紹介。
まだ木が小さく実の収量が少ない時期の貴重な収入源になるオリーブ茶の作り方や、苛性ソーダを使わない安全な実のアク抜き法、ワイン漬けなどのおいしい実の加工品の作り方も多数紹介。
これからオリーブを栽培したい人、すでに栽培している人にも、ぜひおすすめの一冊。
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