オリーブオイルの保存方法についてオリーブ農家からのお願い
1.保存方法に注意が必要なのはエキストラバージンオリーブオイル
1.保存方法に注意が必要なのはエキストラバージンオリーブオイル
小豆島でオリーブ農家をしています。日本人に合った最高に美味しいオリーブオイルをお届けしたいと心から願い、そのためにやれることは何でもしています。
では、そもそも美味しいオリーブオイルとは、どんなオイルでしょうか?
私の考える美味しいオリーブオイルというのは、オリーブの品種ごとに違う良い個性=風味が、はっきりと感じられるオリーブオイルだと考えています。
風味をきちんと感じられるエキストラバージンオリーブオイルを作るためには、多くの手間と工夫が求められます。
逆に言うと、風味を脱臭しているピュアオリーブオイルなどは、保存方法をあまり意識する必要はありません。
オリーブ農家が精魂込めて搾ったエキストラバージンオリーブオイルをできるだけ、風味を損なわずに使ってもらうために保存方法についてお願いがあります。
2.そもそもオリーブオイルの風味を決めるもの
オリーブオイルの風味、香りや味は非常に複雑です。口に含んだ瞬間の甘味や、その後、鼻に抜ける香り、舌で感じる苦みや旨味、和食では珍しい喉の奥に感じる辛味など。
繊細なエキストラバージンオリーブオイルは、その品種、畑の環境(土壌の物理性や成分、植生、日照時間や降雨量、灌漑排水、肥料の有無)、収穫時期、収穫方法、搾油方法(ペーストの物理状態や温度、時間)、保管方法によって全く違った風味になります。
全ての工程が大切です。
つまり、私たちオリーブ農家がどれだけ一生懸命オリーブの世話をして最高のオリーブオイルを搾っても、お客様の自宅に届いた後に、透明のガラス瓶に移し替えられて真夏の炎天下に晒されると、あっという間に風味が飛んでしまうのです。
エキストラバージンオリーブオイルの値段は、ワインと同じで風味の値段です。
できることならお手元にお届けした状態のまま味わっていただきたいので、私たちの手の届かない保存方法を気にするのです。
3.風味を損なわない確実な方法は保存しないこと
保存方法のお話しをする前に、エキストラバージンオリーブオイルの風味を最大限味わっていただく確実な方法についてお話しします。
それはできる限り搾りたてのオリーブオイルを購入して、お手元に届いたらすぐに全部使い切ることです。
オリーブオイルのワインとの一番大きな違いは、ワインは寝かせて時間が経つことで風味が増しますが、オリーブオイルは時間とともに酸化して品質は落ちます。
つまり、オリーブオイルの賞味期限をキチンとチェックして、新しいオイルを買って、買ったらできる限り早く使い切ることが、風味豊かなオリーブオイルを味わう最も確実で簡単な方法となります。
エキストラバージンオリーブオイルの賞味期限はおおよそ2年間です。国産のオイルは更に厳しく1年半に設定しているところもありますが、基本的には2年以内です。
オリーブは10月~11月頃収穫し、翌年の1月頃に出荷することが多いです。
ボトルの裏ラベルに書かれている賞味期限が、1年半先もしくは2年先であれば搾りたてのオイルということになりますし、半年先もしくは1年先ということであれば1年前の古いオイルということになります。
南半球のオーストラリアのオリーブは季節が日本やヨーロッパとは逆なので初夏の7月頃から搾りたての出荷がされます。
4.オリーブオイルの風味を壊す4つの原因
エキストラバージンオリーブオイルの風味を損なわせ、更に進むと異臭を発生させる酸化は4つの原因で進みます。
- 紫外線(日光)
- 酸素(空気)
- 温度(高温と低温)
- 時間
4番目の時間については前述した通りです。オイルを搾ってからの時間が短ければ、紫外線も酸素も温度もほとんど影響されることなく酸化していない風味豊かなエキストラバージンオリーブオイルを味わうことができます。
逆に、ワインセラーで完全な遮光と温度管理をしていても2年を過ぎると、オリーブオイルの酸化が始まります。
次から、3つの原因に対する保存方法の対策について書いていきます。
5.紫外線(日光)からオイルを守る方法
まず第一に紫外線を通さない容器に入っているオイルを購入してください。一般的にはオリーブオイルの瓶で最も多く使われる素材は黒い遮光瓶です。
透明の瓶や酸素も一緒に通してしまうペットボトルの容器などは論外です。酸化を送らせて少しでも風味を守りたいエキストラバージンオリーブオイルをペットボトルや透明のガラスに入れて、販売することは基本的には考えられません。
ちなみに遮光瓶でも完全に紫外線を防ぐことはできません。もちろん室外に保管される方はいないと思いますが、室内でも窓際などからは遠い場所、棚や食糧庫など外の光が届かない場所に保管してください。照明具のLEDは紫外線を含みませんし蛍光灯に含まれる紫外線も非常に微量なので、太陽光以外はあまり気にしなくても大丈夫です。
ちなみに、搾油所でオリーブオイルを保管するときはステンレス製のタンクを使用しています。飲食店などで業務用として大量に保管する場合にはステンレス製のものがおすすめです。
6.酸素(空気)からオイルを守る方法
既に触れましたが基本的にはガラス製の容器を使っていれば問題ありません。
酸素を透過する素材としてはペットボトルやプラスチック製の容器はNGです。またデザイン的におしゃれですが素焼きの陶器なども空気を通すので避けたいところです。
またワインのようなコルク栓も空気を通しますので、オリーブオイルはコルク栓は使用しません。
自宅の保存方法で気を使ていただきたいのは2つです。
瓶は立てて保管してください。寝かせているとオイルと空気が触れる接触面が大きくなります。
また、開封するとどうしても空気と触れる量が多くなります。開封後はできれば1~2ヵ月以内に使い切ってもらうのがベストなので、短期間で使い切る量の小さめのボトルを購入することがおすすめです。
ワインや日本酒などで使われる空気を抜く器具なども酸化を遅らせる効果はあると思われます。
7.温度(高温と低温と温度変化)
温度による酸化を早める原因にも3つあります。高温、低温、温度変化です。
基本的にはオリーブオイルの最適温は15℃から18℃くらい。人間が快眠しやすい冬の寝室の温度くらいです。オリーブ農家はこの温度帯の部屋にオイルを保管しています。
家庭で温度管理するときは、もう少し温度の幅があっても構いません。
まずは低温です。オリーブオイルを冬場に寒いところに実験的に置いておくと10℃を下回ると徐々に白い粒が見え始め5℃前後で白く固まります。しかし、品種によって2~3℃くらいの誤差があります。
できれば10℃以上の室内、最低でも5℃以上になっている場所で保管してください。人間が普通に暮らしているリビングや夜でも気温が下がりすぎない寝室などが適しています。
もちろん冷蔵庫には入れずに常温管理です。
ちなみに、室温が下がりすぎてオイルが固まっても、室温でゆっくりと溶かしてもらえば酸化はほとんど進みません。冷蔵庫に入れて固めたり溶かしたりを繰り返したり、溶かすときに湯煎するなどの高温にすると酸化が急速に進みますので、もし固まっても焦らずにゆっくり室温で溶かしてもらえば問題ありません。
次に高温です。高温は低温よりオイルにダメージを与え酸化を促進します。
オリーブオイルは30℃を超えると酸化の速度が上がります。ですので、火を使うレンジの近くや温水が近くを流れる流し台の下などもNGです。
夏場でも、人間が快適に過ごせる室温のリビングなどで保管してもらえば大丈夫です。人間が暑くて不快に感じる温度とオリーブオイルの酸化が進む温度は概ね同じです。温度が一定していて少しひんやりする場所を探してみてください。案外床下のスペースなど温度変化が低いことがあります。
ちなみに、長期間家を空けるなどの理由で夏場にどうしても室温が30℃を超えることが分かっている場合は、緊急避難的に冷蔵庫の野菜室などにオイルを保管してください。低温より高温の方がオイルの酸化のダメージが大きいです。
8.それでも酸化してしまった場合
どんなに丁寧に管理しても時間が経てばオリーブオイルは酸化します。
また、オリーブオイルの生産者でもないのにオリーブオイルの気温のことを気にしながら生活することはできません。できれば人間が生活している部屋のどこか、冬はできれば棚の上の方、夏はできれば床に近いところのスペースに保管するだけでも構いません。猫が好みそうな場所がオリーブオイルが好きな場所です。
もし、もう少し手間を掛けてもらえるのなら100均で売っているような安い温度計をオリーブオイルの横に置いてください。取り出すときにちらりと温度計を見てもらうだけでも違います。
しかし、もし酸化して風味がしなくなったとしても、臭くなければオリーブオイルは食べられます。賞味期限が切れていても同様に匂いがおかしくなければ大丈夫です。
炒め物や贅沢に天ぷら油として使ってください。オリーブオイルは高温には非常に強い油です。
もし何か匂いが変だなという場合は、ランプの油や木工品などの仕上げに使ってもらえるとうれしいです。
例えば、うちの畑のオリーブの成木は4kgほどの実が収穫できます。搾油率が7%前後なので1本の木から採れるオイルの量は300g足らずです。200mLボトルで1本半。
1年間毎日見回って世話をしたオリーブの恵みです。できれば何かしらにでも役に立ってもらうことを祈っています。
□
文と写真 山田典章
オリーブ専業農家。香川県小豆島の山田オリーブ園園主。1967年佐賀県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、会社員時代の約20年間に保育園事業などの6つの事業に携わる。2010年に小豆島に移住し、子どものときに好きだった虫捕りが毎日できる有機オリーブ農家になる。好きなものは虫と本と日本酒。オリーブ栽培としては初の有機JASに認定される。山田オリーブ園ではオリーブや柑橘類の栽培、加工、販売を行う。
著書 これならできるオリーブ栽培 ~有機栽培・自家搾油・直売~
(出版社コメント)
オリーブをうまく育てるには? 経営として成り立たせるには? ~栽培から自家搾油、販売まで著者の経験を詳しく解説!~
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これからオリーブを栽培したい人、すでに栽培している人にも、ぜひおすすめの一冊。
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