国産オリーブオイルができるまで(オリーブ農家編)
自分の手で育てたオリーブからオリーブオイルを搾って味わってみたいという方はいませんか?
庭に植えたオリーブの木からオリーブオイルを搾ってみたいという方もいれば、大胆にも大きな果樹園にオリーブを沢山植えてオリーブオイルを売る農家になりたいという方もいます。
今回は後者、沢山の木を植えて実を収穫しオイルを搾り販売して職業としてオリーブ農家になってみようという方に向けて、「国産オリーブオイルができるまで(オリーブ農家編)」というテーマでカンタンに手順を追ってみようと思います。
その前に、自己紹介します。
私は小豆島でオリーブ農家をやっています山田と申します。10年ほど前に会社員を辞めて小豆島に移住しオリーブ農家になりました。自分の経験をこれからオリーブ農家になろうという方に活かしてもらえれば幸いです。
手順はカンタンでも、実際やってみると色々あるよオリーブ農家ワールドです。
1)土地を借りる
実はこの土地を借りるというのが存外大変です。逆に言うと畑になる土地を借りることができれば半分は成功したようなものです。
農地を買うというのは、うまくいくかどうか分からないのに投資が大きすぎます。また、農地の売買は農業委員会の許可など手続き的にも条件が厳しいので、やめておいた方が無難です。
借りましょう。基本的に田舎は農地が余っています。
しかし、余っていても条件の良い畑は借りるのが難しいです。日当たりや水はけ、潅水の有無、広さ、アプローチなどなど条件面は少々不利でもまずは借りて、オリーブを植えることを優先してみることです。
うちはオリーブの栽培には向かない水田を1年契約という条件で借りましたが、今ではその畑に沢山の実がなり、その畑の近隣の畑もどんどん借りることができて、とても良かったと思っています。
最もリスクが低いのは土地が借りるメドが立ってから会社を辞めるというのが安全かもしれません。
2)オリーブの苗木を買う
オリーブの苗木を探しましょう。
僕は小豆島というオリーブだらけの島で農家になったので、この苗木探しはとても楽でした。
しかし、普通は良質な苗木を沢山買うことは難しいです。
では、どう買うか?
まず決めるのは、買う本数と品種です。
本数は畑の広さで決まります。樹間を5m前後と仮定すると1反に50本くらいが植えられます。
次に品種です。
とりあえず小豆島で実績がある、ミッション、マンザニロ、ルッカ、ネバディロ・ブランコは半分以上植えた方が良さそうです。
それ以外に品種も楽しそうだし、差別化できそうなので魅力的ですが、日本の気候に耐えて育って実を付けるか未知数です。
植えてからオイルが搾れるまで5年ほど掛かります。全部を初めての品種にすると5年が無駄になる可能性があります。実績がある品種を押さえつつ何割かで新品種にチェレンジしてみてはいかがですか。
次にどこで買うかです。
大切なのは品種を指定できる店や農家から買うことです。ホームセンターなどに売っている品種が分からない苗木は無価値です。
少量ならネット通販、大量ならオリーブ専門の苗木屋、苗木も販売しているオリーブ農家で購入しましょう。
樹高1~1.5m前後の3年生当たりが成長も早くておすすめです。
オリーブの実を収穫したい人のための苗木の選び方&品種の見分け方
3)オリーブの苗木を植える
土地も見つかり苗木も買ったら、さあ木を植えましょう。
テンション上がりますね。僕も1本目を植えるときのドキドキは今でも忘れられません。
植え方の詳細はここでは書きませんが、守った方がいいポイントは3つあります。
1つ
高植えすること。オリーブは深植えは絶対にダメです。(オリーブは浅植えが鉄則/深植えするとこうなる-オリーブ生態実験)
2つ
支柱で支えること。オリーブの苗木は支柱ナシだとすぐに倒れます。(オリーブ農家が実践する風に弱いオリーブを支える支柱の立て方実践編)
3つ
春に植えること。夏と冬はNGです。秋は早秋なら何とかOKですがおすすめはしません。まあ冬が暖かいとこなら秋も全然OKです。
4)オリーブを育てる
ここからは長いです。365日毎日世話をします。
でも、オリーブの世話をするのが面倒だと思う人はオリーブ農家になるのはやめましょう。
いつのまにか畑に来てしまうくらいの人がオリーブ農家向きです。
詳しくはこちらを読んでください。趣味のオリーブ栽培向けですが参考になると思います。(オリーブの有機栽培農家が教えるオリーブを無農薬で育てる方法)
うちは無農薬で育てているので、害虫の捕獲というのが大きな仕事の1つですが、慣行のオリーブ農家でしたらその部分は農薬散布で事足ります。
やることは沢山ありますが、一番長い時間を掛けてやっているのは草刈りです。
草生栽培という草を生やす栽培方法にも関わらず、草ばかり刈っています。
オリーブの栽培農家は除草剤を使わないのであれば、とにかく草を刈って刈って刈りまくるのが仕事です。
草刈りを楽しめるようになりましょう。(オリーブ農家になるために必要な道具トップ10)
5)オリーブの実を収穫する
待ちに待った収穫です。
小豆島では基本的に全て手摘みです。海外の大農場のような機械化はされていません。
ひたすらオリーブの実を手でちぎって収穫袋に入れていきます。
収穫で大切なことは人員の手配です。
うちは600本の木を栽培していますが、普段の畑仕事は一人でしています。しかし、1カ月の収穫期間にはアルバイトを雇い概ね10人体制で手摘みします。この1カ月間だけ仕事をお願いする人をいかに雇うことができるかがとても大切になってきます。ここで人手が不足すると、最悪、生った実を収穫できなくなったり、収穫期間が長引き最も美味しいタイミングの熟度の実を採り逃してしまうことになります。
自社サイト、民間求人サイト、ハローワーク、親戚、知人などなどあらゆる方法で収穫スタッフを確保する必要があります。
ボランティアや収穫体験などの受け入れている農家もあります。ちなみに、うちでは予定している量の実を迅速に、かつ安定的に収穫することを優先するためボランティアはお断りしています。
6)オリーブの実を搾る
そして、収穫した実を搾ります。
しかし、搾油はあくまでも自社の搾油を優先するため、他所の搾油は後回しになることを覚悟する必要もあります。オリーブは収穫してから搾油までの時間は短ければ短いほど質が維持できるので、このタイミングでのタイムロスはオイルの質に影響します。
天候や気温、収穫体制に関わらず予め約束した日に約束した量の実を搾油してもらうための苦労はなかなかのものです。
収穫量が増えてきて、搾油機(搾油所含む)の投資回収の見込みが立てば、できるだけ早く自家搾油所で自分の手でオイルを搾ることを目指します。
上記7つのこだわりのうち「06.自家搾油所」参考になることがあるかもしれません。
どんなに良質な実を収穫しても搾油に失敗すれば、オイルを1滴も搾れなかったり、欠陥オイルになるようなことがありますので、この搾油は非常に緊張感が高い仕事です。
オイルの量を取るか、質を取るかは相反します。ここでの選択は、毎年購入してくれるお客さんに喜んでもらえるかどうか、厳しい判断に直結します。
7)オリーブオイルを販売する
自分の手で育て、実を摘み、搾ったオリーブオイルは売ることができて独立した自営オリーブ農家になります。
木を育てることや、オイルと搾ることはできても、この売るということは全く別の能力が要求されます。
いくら良いものを作っても買ってもらわなければダメです。
黙々と努力しても売ることができなければ、農家として継続的に仕事を続けることができません。
売り方には色んな方法があります。
卸し、小売り、企業への原料提供、道の駅、農協、ネット通販、新聞広告、テレビショッピング・・・。
ここはうちも自信も持って、このやり方と言えるほどにはなっていません。
今は、ネットで少しでもオリーブ栽培のことを知ってもらい、直接買ってもらうことを一生懸命やっています。
どう売るか、ということは苗木1本植えるところから常に意識しておかなければ、これからのプロの農家と言えないのかもしれません。
最後に
最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。
オリーブ農家なってみようと思いましたか?
10年ほど前、突然、会社に向かうバス停で新宿の高層ビル群を見ながら、オリーブ農家になることを決めてその日のうちに辞表を提出しました。
当時の会社の人たち、そして何より子どもを生んだばかりの妻には、迷惑千万だったことでしょう。
でも、色々ありましたが何にもないところから始め、600本の木を育てるオリーブ農家になりました。
農家になって食えるようなってからが本番です。
自分なりに目標としているオリーブオイルに一歩でも近づけるよう、泣いたり笑ったりしながら、これからも早寝早起きでがんばります。
□
文と写真 山田典章
オリーブ専業農家。香川県小豆島の山田オリーブ園園主。1967年佐賀県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、会社員時代の約20年間に保育園事業などの6つの事業に携わる。2010年に小豆島に移住し、子どものときに好きだった虫捕りが毎日できる有機オリーブ農家になる。好きなものは虫と本と日本酒。オリーブ栽培としては初の有機JASに認定される。山田オリーブ園ではオリーブや柑橘類の栽培、加工、販売を行う。
著書 これならできるオリーブ栽培 ~有機栽培・自家搾油・直売~
(出版社コメント)
オリーブをうまく育てるには? 経営として成り立たせるには? ~栽培から自家搾油、販売まで著者の経験を詳しく解説!~
手間いらずで儲かる新品目として注目されるオリーブ。しかし、「木が枯れてしまった」「何年たっても実がならない」「オイルの搾り方がよくわからない」といった声も。
本書では、脱サラで新規就農し、日本で初めてオリーブ栽培の有機JASを取得した著者が、確実に実をならせるための栽培のコツや病害虫対策、小規模な自家搾油所の作り方と搾油方法、ネット通販などのノウハウを丁寧に解説。
とくに、日本のオリーブ栽培で最大の難関となるオリーブアナアキゾウムシ対策は必見。昆虫少年だった著者が観察と実験を繰り返して、明らかにしたその生態をもとに、農薬を使わなくても、効率よく確実に被害を防ぐ方法を紹介。
まだ木が小さく実の収量が少ない時期の貴重な収入源になるオリーブ茶の作り方や、苛性ソーダを使わない安全な実のアク抜き法、ワイン漬けなどのおいしい実の加工品の作り方も多数紹介。
これからオリーブを栽培したい人、すでに栽培している人にも、ぜひおすすめの一冊。
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