オリーブアナアキゾウムシから農薬を使わずオリーブを守る動画&解説集
日本でオリーブを育てると度々、オリーブアナアキゾウムシに枯らされる被害に遭います。小豆島で農薬を使わない有機栽培でオリーブをゾウムシから守ってきた農家が、ゾウムシの生態とゾウムシからの防除方法を動画と解説文章でまとめています。
動画 目次
- ゾウムシがオリーブを枯らすメカニズム
- ゾウムシの生態
- ゾウムシの幼虫捕獲
- ゾウムシの成虫捕獲
- 実際に捕獲している動画
- ゾウムシからオリーブを守る環境作り
- もしゾウムシに食害されて枯れそうになったら
解説 目次
【動画】
1.ゾウムシがオリーブを枯らすメカニズム
オリーブアナアキゾウムシならではの4つの生態、根本集中、コアラ的な気質、集合フェロモン、無天敵についての話し。まずはこのことを理解することがオリーブをオリーブアナアキゾウムシから守るための全ての基本です。
2.ゾウムシの産卵の様子
2-2.ゾウムシが好む食べ物
2-3.夏の行動パターン
3-1.目印とドライバーでの掻き出し方
オリーブアナアキゾウムシの幼虫が木を食害し始めたら出るサインを見逃さずドライバーで掻き出します。3例を収録。
3-2.黒いシミを目印に幼虫を掻き出す
3-3.根に入った幼虫を掻き出す
3-4.枯れ枝をサインに幼虫を掻き出す
3-5.蟻を使って幼虫を駆除する
蟻だけでなく多様な生き物が住みつく有機オリーブ畑は農薬の代わりに益虫たちが害虫を食べてくれます。ちなみに益虫だけを増やすことはできません。害虫も益虫もそのどちらでもない虫たち、多種の草花が沢山いてバランスが取れている畑が理想です。そういう環境の畑に時間を掛けて少しずつ近づけていくことが有機農家の腕の見せ所だと思います。
4-1.昼間に成虫がいる場所
4-2.雨上がりに成虫を捕獲する
気温が徐々に上がり、湿度が最も高い季節、梅雨はゾウムシの出現率がぐっと上がる季節。雨上がりに効率的にオリーブアナアキゾウムシを捕獲する方法。
4-3.成虫捕獲の裏技「木の又法」
オリーブアナアキゾウムシが卵を産み付けるポイントで2番目に多いのが木の又。木の又チェックの方法を知ることで防御率を上げることができる。
4-4.成虫捕獲の裏技「タコつぼ法」
ゾウムシが明るい日中は、捕食者から見つかりにくい洞(うろ)や隙間に隠れる習性を利用して捕獲する方法。「ふとん法」が一時的人為的に隠れる場所を作る方法なら、この方法はオリーブの木が自ら形成した洞を長期間使う方法。
4-5.成虫捕獲の裏技「ふとん法」
ゾウムシは乾燥してて明るい場所が何より嫌いで、逆にジメジメして暗い場所が好き。嫌いを利用してオリーブの根元はできるだけ風通しよく明るくすることがオリーブをオリーブアナアキゾウムシから守るには効果的なのだが、ゾウムシが好むジメジメして暗い環境で誘うこともできる。それが動画で紹介した裏技「ふとん法」。
4-6.成虫捕獲の裏技「フィッシング法」
フィッシング法とは、ゾウムシの成虫が大好きな新梢をゾウムシが産卵のために降りてくる根元に餌を撒いてゾウムシを捕獲する裏技というか秘儀。
4-7.成虫捕獲の裏技「パラソル法」
高い確率でゾウムシがいる木で使う最終手段的な裏技。オリーブの木の下にできるだけ大きい傘をひっくり返して置きます。そして、コンコンコンと幹を叩くように揺すります。オリーブアナアキゾウムシは人間が近づく振動で枝からポロリと落ちて死んだふりをする性質を利用した方法です。この方法なら高いところにいるゾウムシも傘に落とすことができます。傘がない場合は、レジャーシートのようなものでも構いません。落ちてきたものがゾウムシと見分けやすければそれでOKです。
4-8.成虫捕獲の裏技「ランダムパターン」
4-9.成虫捕獲の裏技「方位学」
5-1.糞と食害痕から推理して成虫を捕獲する
こうやってオリーブアナアキゾウムシを捕まえています。いつもひとりでやっているゾウムシの追跡中に頭で考えていることを言葉にしながら撮影しました。
5-2.ゾウムシ被害が集中している畑で成虫を捕獲する
畑によってゾウムシの密度が違います。いつも沢山ゾウムシがいる畑もあれば、オリーブを植えてから何年経ってもゾウムシが来ない畑もある。特定の気象条件になるとゾウムシ密度が極端に高まる畑でどんどんゾウムシを捕獲する動画です。
5-3.ゾウムシの成虫を捕獲する朝の見回り
朝の見回りでゾウムシを捕獲しているときの動画です。
6-1.オリーブの根元は明るくきれいに
6-2.ひこばえは剪定する
6-3.ゾウムシを捕獲するための7つ道具
2021年最新のオリーブアナアキゾウムシ捕獲道具を紹介しています。
7-1.盛り土をして発根を促す方法
オリーブの根元に沢山のオリーブアナアキゾウムシの卵が産み付けられることで、その幼虫に幹の内部を食い荒らされ、水分や養分を十分に樹上に上げることができなくなったオリーブを復活させるアイデアを解説しています。加害があまりにひどい場合は難しいですが、農薬などを使わず復活させる方法です。
7-2.強剪定で負担を軽くする
水分と栄養分を枝葉に届ける力が落ちているので、枝葉の量を減らして根の負担を軽くして木の復活を待ちます。
【解説】
1.オリーブアナアキゾウムシとは
オリーブアナアキゾウムシは山林に生えるネズミモチ、イボタノキや海外から持ち込まれたオリーブ等のモクセイ科の樹木を食害する日本で発見されたゾウムシです。小豆島でオリーブの栽培が始まると、オリーブアナアキゾウムシがオリーブ畑で増殖し、これまで沢山のオリーブを枯らしてきました。日本と台湾で生息が確認されているようです。成虫は1.5cm前後、昼間はオリーブの幹の隙間や枝先に潜み、夜になると活発に活動します。活動期は春から秋、冬は休眠し、数年の寿命があります。主な移動手段は歩行ですが、夜には飛翔して移動することもあります。基本的に暗くて湿気が多いところを好みます。
成虫は、新芽や樹皮を食べますがオリーブにダメージを与えるほどではありません。成虫が産み付ける卵から孵化した幼虫が、水分や養分を枝葉に上げる形成層を食べて大きくなります。大量の幼虫が1本のオリーブを集中的に食害することで、木が水分や養分を地上部に上げることができなくなり、場合によっては1~2年程度で木が枯れてしまいます。
オリーブアナアキゾウムシは、孵化から成虫になるまでの期間が1カ月ほどと短いこと、1匹のメスが1年で50~100個前後の卵を産む多産型であること、成虫は夜行性でカモフラージュした模様を持つため天敵が少ないことなどから、オリーブ畑でネズミ算式に増殖し、かつ1本の木に集中的に卵を産み付けるので、木が枯れてしまいます。そのためオリーブアナアキゾウムシはオリーブの最大の害虫とされています。
2.オリーブアナアキゾウムシの生態
【交尾】
交尾が始まると数時間から数日は交尾したまま離れない。メスが下でオスが上。捕獲したゾウムシを同じところに飼育すると、オスは相手がオスでもメスでも交尾しようとする。ちなみにオリーブアナアキゾウムシは縄張りを持たず、逆にゾウムシが1匹いると、他のゾウムシも集まってくる傾向が見られる。
【産卵】
メスは、ゾウムシ特有の口吻を繰り返し木に押し付けることで徐々に卵を産み付ける穴を穿っていき、1mmくらいの穴が空いたらお尻にある産卵管を穴に差し入れ卵を産み付ける。この卵を産み付ける場所が木の地際が最も多い。地際以外には、枝が分岐する部分や、支柱と木が交差する部分などにも産み付けることがある。産卵の時間帯は夜から朝であることが多い。オリーブアナアキゾウムシの卵は1mmくらいで、ほんのり黄なりの白で楕円型。
【幼虫~蛹】
オリーブアナアキゾウムシの幼虫は、甲虫類の典型的な白色のイモムシ状で頭だけが褐色。オリーブの樹皮の内側にある柔らかい形成層を食べて徐々に大きくなっていく。卵から生まれたばかりは1㎜くらい。蛹になると成虫と同じサイズになり1.5㎝前後。オリーブの栄養状態、気温などによって変わるようだが、孵化から1ヶ月くらいで成虫となって木から出てくる。
【成虫】
体長は平均は15mmくらい。ゾウムシのサイズは幼虫時代に決まるようで、枯れかけの栄養状態が悪い木からは小さいゾウムシが生まれてくる。ちなみに、小さいゾウムシが畑にやってくると、どこか近くのオリーブが枯れた可能性があり、他所からの侵入が増えることがある。ゾウのような口吻が特徴の典型的なゾウムシの形。体表はゴツゴツしていて、とても小さな毛が生えており、光沢はない。模様は、こげ茶とベージュの斑模様で個体によって全て模様が違い、オリーブの傷ついた樹皮や、地面に落ちた種、鳥の糞などと見分けがつきにくい。オリーブアナアキゾウムシは、あまり動き回らず1本の木で生活している。他の木に移動するときは、ほとんどの場合は歩行で移動する。夜間には飛翔することがあり、飛翔する場合は比較的遠くまで飛んでいく。水は苦手で泳げない。土を掘って潜ることはしない。気温が15℃を超えると活動が始まり25℃を超えると最も活動的になり、実験では40℃で活動が止まり50℃で死んでしまう。成虫が最も好んで食べるのは黄緑色の柔らかい新芽もしくは新梢の樹皮。新芽、新梢がない場合は、比較的新しい幹の樹皮を食べて、それも無ければ、オリーブの実を食べる。オリーブの葉は食べるものが全くない場合は食べることもある。実際のオリーブ畑では、オリーブアナアキゾウムシが新梢を食害した跡を見ることがあり、特徴的な食害跡と小さく黒い糞が特徴。
3.オリーブアナアキゾウムシの防除方法
まずは、うちで実践している農薬を使わないでオリーブアナアキゾウムシからオリーブを防除する方法は大きく分けて2つあります。1つはゾウムシの幼虫をコツコツと掻きだす方法、もう1つは生態を利用して成虫を捕獲する方法です。幼虫の捕獲は、定期的に畑を見回りし、粘り強く行えば誰でもできます。成虫を捕獲する方法は知識と経験が必要ですが卵を産むメスを1匹捕獲できる効率の良さがあります。幼虫と成虫の捕獲、どちらか1つではなく両方を総合的に行っています。
【幼虫の捕獲方法】
基本的には、オリーブの根元に出てくるゾウムシの幼虫が食害した糞を目印に幼虫を見つけます。幼虫の8割近くは根元の地際から30㎝以内のところで見つかるので、定期的にオリーブの根元を見て回り、糞を見つけたらマイナスドライバーで掻き出します。増殖のサイクルを断ち切れば、少々オリーブが傷つくことはあっても、枯れるほどのダメージは受けません。農薬を使っている畑でも、完全に防ぎきれない場合があるので、オガクズ状の糞を目印にした定期的な幼虫の捕獲は効果的です。
探し終わったら、2つやることがあります。1つ目は、根元のオガクズ状の糞をきれいに飛ばしてしまいます。丁寧に掻きだしたつもりでも、全ての幼虫を掻きだせていません。オガクズを残したままにしておくと、新しいオガクズが出ても気づきにくくになります。そしてもう1つ、成虫が同じ木もしくは近くの木にいるかもしれないので、丁寧に探します。幼虫がいるということは1カ月以上前には成虫がその木にいたということです。ゾウムシは案外、移動せず何カ月も同じ木で産卵を繰り返す性質があります。その木もしくはその木の周辺にいる可能性があります。
【成虫の捕獲方法】
ゾウムシの成虫を広いオリーブ畑の中から探し出すのは簡単ではありません。成虫がいそうなところを重点的に探します。ゾウムシの成虫がいそうな場所を絞り込むには、2つのアプローチがあります。1つ目は、オガクズ状の糞を目印に見つけた幼虫がいた木もしくはその木に隣接する木にいる可能性があります。ゾウムシは移動せず集まってくる習性があるので、もし、ゾウムシの幼虫が見つかったら、ついでに、その木と周辺の木にいるかもしれない成虫を徹底的に探します。ゾウムシの成虫がいそうなポイントは、人間の目から見えにくいところです。パッと見えるところにはいませんので、陰になっているようなところや隙間を重点的に探します。
もう1つのアプローチは、成虫のメスの生態を利用した方法です。メスは数日おきに木の根元付近に降りてきて産卵します。産卵する場所は木の根元の地際が一番多く、産卵中は無防備に姿を現します。また、メスを追ってオスも根本付近に下りてくることがあります。根元に直接、日差しが届く時間帯は、あまり現れないでの、日中以外の時間帯を中心に見回ることで効率的に捕獲しています。
それとゾウムシの好物は新梢です。新梢が多く出ている木に、やってくる傾向があります。つまり枯れかけているような木や、小さくて新梢の量が少ない苗木には、あまりいません。また、このことと関係がどこまであるか確証はありませんが、小豆島の4品種の中では、年間を通して新芽を出し続けるルッカが、ゾウムシに好まれる傾向にあります。実を多く付けることで養分が新芽に回らない夏から秋のミッションやマンザニロは若干、ゾウムシの被害が少なくなっているようです。
【ゾウムシを捕獲するための環境整備】
幼虫と成虫を見つけるためには、見つけに行くことと同じかそれ以上に環境整備が大切になります。ゾウムシは成虫も幼虫も根本から30cm程度の場所で捕獲することが多いので、この場所は常に何もなく見えやすい状態にしておく必要があります。具体的には、オリーブの横を歩きながら根本30cmまでの主幹を遮る雑草は常に抜いておき、地面に何もない状態にします。またオリーブの下に垂れる枝が掛からないように剪定しておきます。その他、落ち葉やオリーブの種なども定期的に清掃します。傷ついて剥がれかけた樹皮などのキズはきれいに削り、ゾウムシが隠れやすい木の洞などは、清潔な真砂土などで埋めてしまいます。オリーブは樹齢が古くなると、徐々に根本近くの樹皮にひび割れや瘤、洞などができてきてゾウムシが隠れやすい場所が増えてきます。そのような場合にも真砂土などで盛り土をして覆うとゾウムシの隠れ場所がなくなり、ゾウムシを見つけやすくなります。
4.農薬を使用した防除方法
慣行栽培で使用している農薬を参考までに紹介します。変更などがありますので最新情報は農薬のラベルもしくは当該HP等でご確認ください。(出典:小豆オリーブ研究所)
スミチオン乳剤/希釈倍数:50倍/使用時期:収穫21日前まで/回数:年間3回以内/使用方法:樹幹散布
アディオン水和剤/希釈倍数:2000倍/使用時期:収穫7日前まで/回数:年間2回以内/使用方法:散布 ※オリーブ葉を使用する場合は使用不可
ダントツ水和剤/希釈倍数:4000倍/使用時期:収穫前日まで/回数:年間2回以内/使用方法:散布 ※オリーブ葉を使用する場合は使用不可
バイオセーフ/希釈倍数:2500万頭/50L/使用時期:幼虫発生時期/回数:制限なし※有機JAS使用可能農薬
□
文と写真 山田典章
オリーブ専業農家。香川県小豆島の山田オリーブ園園主。1967年佐賀県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、会社員時代の約20年間に保育園事業などの6つの事業に携わる。2010年に小豆島に移住し、子どものときに好きだった虫捕りが毎日できる有機オリーブ農家になる。好きなものは虫と本と日本酒。オリーブ栽培としては初の有機JASに認定される。山田オリーブ園ではオリーブや柑橘類の栽培、加工、販売を行う。
著書 これならできるオリーブ栽培 ~有機栽培・自家搾油・直売~
(出版社コメント)
オリーブをうまく育てるには? 経営として成り立たせるには? ~栽培から自家搾油、販売まで著者の経験を詳しく解説!~
手間いらずで儲かる新品目として注目されるオリーブ。しかし、「木が枯れてしまった」「何年たっても実がならない」「オイルの搾り方がよくわからない」といった声も。
本書では、脱サラで新規就農し、日本で初めてオリーブ栽培の有機JASを取得した著者が、確実に実をならせるための栽培のコツや病害虫対策、小規模な自家搾油所の作り方と搾油方法、ネット通販などのノウハウを丁寧に解説。
とくに、日本のオリーブ栽培で最大の難関となるオリーブアナアキゾウムシ対策は必見。昆虫少年だった著者が観察と実験を繰り返して、明らかにしたその生態をもとに、農薬を使わなくても、効率よく確実に被害を防ぐ方法を紹介。
まだ木が小さく実の収量が少ない時期の貴重な収入源になるオリーブ茶の作り方や、苛性ソーダを使わない安全な実のアク抜き法、ワイン漬けなどのおいしい実の加工品の作り方も多数紹介。
これからオリーブを栽培したい人、すでに栽培している人にも、ぜひおすすめの一冊。
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