オリーブ農家の収穫用品種の選び方と国内品種トレンド
オリーブの木が日本で植えられる目的は大きく分けて2つあります。
1つは観賞用の観葉植物として。個人の庭やお店の前、大きなところではディズニーランドなどオリーブならではの雰囲気を作り出してくれます。
もう1つは実を収穫して食べる果樹として植えられます。10数年前までは私が住んでいる小豆島と岡山の一部のみで果樹用にオリーブが栽培されていました。
日本で栽培されている観賞用の樹木は従来より様々な品種が輸入されてきましたが、実を収穫することを目的にした品種は限られているのが現状です。
小豆島で昔から栽培されている4つの品種(ミッション、ルッカ、ネバディロブランコ、マンザニロ)とは別に、ここ10年ほどの間にイタリアやスペインから輸入された海外の新しい品種が全国各地に植えられるようになりました。
国内で新たにオリーブを特産品にしようする地域では、国内で最大の生産地である小豆島のオリーブオイルとの差別化を図るために、小豆島4品種以外の品種の導入が盛んです。
また、小豆島でも全国的な新たな品種導入に対抗するため、もしくは従来の4品種の炭疽病などの問題を解決する手段として、もしくは島内での競争を生き抜くために新たな品種の栽培が試されています。
オイルを搾ることができても消費者のニーズに合った風味のオイルでなければ売ることが難しいでしょうし、海外のメジャーな品種は輸入される同じ品種のオリーブオイルとの激しい競争に晒されます。そのような状況を踏まえ、数年後には香川県独自の新品種「香おり」(仮称)など2品種の栽培なども予定されています。
これまでの国産オリーブオイルなら売れた時代から、国内間での競争であるとか、安くて偽物のオリーブオイルではない高価格高品質の海外のオイルの浸透など、地域、企業や農家などでの品種の差別化が顕在化しつつあります。農家独自のブレンドオイルを作る場合でも、もちろん栽培品種は非常に重要になります。
当園でもこれまで15品種のオリーブを栽培してきました。
日本の気象環境に淘汰されずに実績がある小豆島4品種、新たな海外品種の一部は収穫量も増え自家搾油所にて搾油し商品化することができるところまできました。
全ての品種が日本の気象環境に合う訳ではありません。当園は農薬を使用しない有機栽培で育てていることもあり、害虫に弱いシプレッシーノや化学肥料や定期的な潅水が必要なカラマタなどの大粒の品種は、育てることができても収穫量の確保が難しいものもありました。
そして、今年2019年の春にも新しい品種の栽培の準備を始めました。まずは品種選び。
うちで、新品種を選ぶときに参考にしていることは7つです。
1.搾油率(実に含有されるオイルの割合)
2.オイルの風味(試飲の可否・コンテスト受賞歴)
3.海外の主要生産地域(日本に近い気象環境が有利)
この3つは比較的簡単に調べられます。実際のオイルを購入し試飲することは特に大切です。第一印象で自分が惚れ込んだ品種は何としても育てたくなります。
4.収穫実績(1本の木から収穫できる実の量と実のサイズ)
5.栽培の難易度(病害虫への耐性含む)
ここは日本語ではなかなか情報がありません。英語以外にイタリア語、スペイン語などの情報は豊富にあるので翻訳機能を使いながら概要を調べます。しかし、ここは実際に日本の自分の畑で育ててみないと分からないことが多いのが実感です。シチリア島で沢山収穫できる品種でも日本ではさっぱりうまくいかないことはザラです。
6.苗木が入手可能か
といっても苗木がないと植えられません。どうしてもという場合には1本だけでも輸入して日本で挿し木で増やすという方法もありますが、とても時間が掛かります。
7.国内での栽培状況
昨年までは、この7番は意識していませんでした。
小豆島の周りの農家で最近、アルベキーナが流行っているなとか、〇〇さんとこはフラントイオで海外のコンテストで受賞したらしいといった程度は知っていましたが、今年あたりからは国内のトレンドを知った上で、自分の畑に何を植えるのかを考えようと思いました。
オリーブ栽培が小豆島から日本各地に広がり始めて十数年、2019年時点で各地で栽培され始めた代表的な品種のトレンドはこんな感じのようです。
フラントイオ
レッチーノ
アルベキーナ
タジャスカ
マウリーノ
シプレッシーノ
ペンドリーノ
ピクアル
上の3つはうちでも既に搾油を始めています。どれも病気に比較的強く育てやすく風味も特徴的です。欠点は実が小粒なので手摘みの収穫が大変ということでしょうか。
さて、最近の日本での栽培品種のトレンドが分かった上で次に何を育てるか、2つくらい頭に浮かんでいる品種があります。
4~5年以内には美味しいオイルになって皆様にお届けできるかもしれません。
ここからはひたすら悪戦苦闘です。美味しいオリーブオイルを楽しみにしてください。
□
文と写真 山田典章
オリーブ専業農家。香川県小豆島の山田オリーブ園園主。1967年佐賀県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、会社員時代の約20年間に保育園事業などの6つの事業に携わる。2010年に小豆島に移住し、子どものときに好きだった虫捕りが毎日できる有機オリーブ農家になる。好きなものは虫と本と日本酒。オリーブ栽培としては初の有機JASに認定される。山田オリーブ園ではオリーブや柑橘類の栽培、加工、販売を行う。
著書 これならできるオリーブ栽培 ~有機栽培・自家搾油・直売~
(出版社コメント)
オリーブをうまく育てるには? 経営として成り立たせるには? ~栽培から自家搾油、販売まで著者の経験を詳しく解説!~
手間いらずで儲かる新品目として注目されるオリーブ。しかし、「木が枯れてしまった」「何年たっても実がならない」「オイルの搾り方がよくわからない」といった声も。
本書では、脱サラで新規就農し、日本で初めてオリーブ栽培の有機JASを取得した著者が、確実に実をならせるための栽培のコツや病害虫対策、小規模な自家搾油所の作り方と搾油方法、ネット通販などのノウハウを丁寧に解説。
とくに、日本のオリーブ栽培で最大の難関となるオリーブアナアキゾウムシ対策は必見。昆虫少年だった著者が観察と実験を繰り返して、明らかにしたその生態をもとに、農薬を使わなくても、効率よく確実に被害を防ぐ方法を紹介。
まだ木が小さく実の収量が少ない時期の貴重な収入源になるオリーブ茶の作り方や、苛性ソーダを使わない安全な実のアク抜き法、ワイン漬けなどのおいしい実の加工品の作り方も多数紹介。
これからオリーブを栽培したい人、すでに栽培している人にも、ぜひおすすめの一冊。
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