オリーブ農家が実践する風に弱いオリーブを支える支柱の立て方実践編
オリーブは根が浅く風に弱い木です。小豆島では、毎年数回やってくる台風の度に倒木の被害が出ます。そこで、小豆島のオリーブ農家が実践しているオリーブの支柱の立て方を紹介します。
1.支柱が必要な2つの理由
1)倒木対策
台風などの強風で木が倒れるため、しっかりとした支柱が必要になります。
2)細根を守るため
細根の成長を守ります。強風でなくても断続的に地上部が揺れることで、地下茎に振動が伝わり細根が傷つくことがあります。細根が傷つくと養分や水分を吸い上げる能力が落ちるので木の成長が阻害されます。
2.支柱の素材
支柱の素材として、鉄の杭、L字鋼、木の杭、竹、市販のイボ竹などが考えられます。それぞれの素材の特徴に合わせて使用します。
当園で使用している主な素材はL字鋼、竹の2つについて詳しく紹介します。
ちなみに実際に使ってみてのオリーブの支柱としての素材の評価ランキングはこのような感じです。
1位 L字鋼
とにかく頑丈でハウス用の廃材を使えばコストゼロの小豆島のオリーブ農家の定番支柱。欠点は抜きにくい。
(強度★★★★★/耐用年数★★★★★/メンテナンス★★★★★/抜きやすさ★/価格安い★~★★★★)
2位 竹の杭
竹林があればコストゼロで入手可能。打ち込みやすく木の杭と同等に頑丈だが定期的なメンテナンスが必要。
(強度★★★/耐用年数★★/メンテナンス★/抜きやすさ★★★★★/価格安い★★★★★)
3位 イボ竹
鉄パイプの芯を緑色の塩ビで巻いている市販品のイボ竹。若木の間のみ使用ということであれば安価でそこそこ頑丈。
(強度★★/耐用年数★★★/メンテナンス★★/抜きやすさ★★★/価格安い★★)
4位 木の杭
ホームセンターなどで入手しやすいし、見た目がきれいなので観賞用樹木向き。値段が高い割に腐食による倒木あり。
(強度★★/耐用年数★★★/メンテナンス★★★/抜きやすさ★★★★★/価格安い★)
5位 鉄の杭
廃材などで入手できれば使用してもいい。丸いものは土が雨で緩むと風で動きやすくなる。抜けやすいし抜きやすい。
(強度★★★/耐用年数★★★★/メンテナンス★★/抜きやすさ★★★★/価格安い★★★★★)
3.L字鋼のメリットとデメリット
1つは頑丈で倒れないこと。Lの形が地面にしっかり食い込み、深く打ち込めば杭自体が倒れるということは、ほぼありません。それに対し、丸い形状の鉄の杭はL字鋼に比べると、ぐらぐらしやすく雨が降って土が柔らかくなったところに強風が吹くと、抜けるもしくは倒れてしまうことがあります。
もう1つは安価なこと。小豆島のオリーブ農家が最も多く使用しているのがL字鋼です。もともとビニールハウスの枠として使用されていたものを再利用しているためコストが掛かっていません。
デメリットは3つあります。
1つは木の周りに2本もしくは3本の支柱が経つので草刈りなどの木の管理のジャマになります。
もう1つは危険。鉄の細い杭が畑のあちこちに突き出ている状態になるので、三脚に乗っての収穫時にその上に落ちれば大けがをします。農園によっては錆止めを兼ねて危険予防のために赤やオレンジ色のペンキを塗って注意喚起しています。
3つ目。これが一番大きなデメリットですが、抜きたくても抜けません。オリーブも成木になり、しっかりと根を張ると支柱が要らなくなります。そこでL字鋼を抜こうとするのですが、鉄が錆びて膨張し土と一体化し、なかなか抜けません。
車のジャッキなどを使用して抜いたとしても1本抜くのに10分~30分くらい掛かります。ミニユンボなど何か便利なアイテムがあれば問題ないのかもしれません。
4.L字鋼の支柱の立て方(3本支柱)
立て方は2つあります。1つは3本使用した立て方、もう1つは2本使用した鳥居型です。
まずは小豆島で多用されている台風への強度が高い3本立てです。木から0.5m~1mくらい離れた場所に正三角形になるようにL字鋼を打ち込みロープで引っ張って支えます。
3本立てのポイント
- 木の真ん中を通っている主幹もしくは主枝の1か所を3本から引っ張ります。ロープはたるませずピンと強く張ることで強度が増します。
- L字鋼は真ん中に引っ張られるので、少し外側に倒して打ち込みます。またL字の凹部分は内側に向けます。
- ロープは平らなビニールハウスなどで使用される「ハウスバンド」「マイカ線」がお勧めです。普通の丸いロープを使用すると木の幹に食い込むことがあります。
- 支柱は鉄ですので打ち込みは、「石頭鎚」もしくは「両口ハンマー」といった1kg前後の重くて頑丈な金槌が便利です。
5.L字鋼の支柱の立て方(2本鳥居支柱)
3本支柱より強度は若干劣りますが、台風で倒れるなどの被害は、鳥居型でもほとんどありません。
鳥居型のメリットは2つあります。
- 支柱を2本しか使用しないのでL字鋼を節約できる。
- L字鋼は抜くのが大変です。抜く手間が3本より少ない。
ちなみにデメリットは、オリーブの木を支えるのは横に渡した竹の結束部分がゾウムシなどの隠れ場所になります。
2本鳥居支柱の立て方ポイント
- 木の主軸と平行になる位置、0.5m程度に打ち込みます。
- 風の方向が分かる地形でしたら、風向きと支柱が相対する場所にL字鋼を打ち込みます。鳥居支柱は真正面真裏の風には強いですが横風に若干弱いです。支柱から主幹にロープを掛けて両サイドから引っ張ると側面の風にも対応できます。
- 横棒の材質は何でも構いませんが、当園では竹を使用しています。
- 竹が主枝の間に入るようにするとロープなどで固定せずに木を固定することができます。
- 竹の高さは1m前後。低すぎると木の主軸が動くので注意。
- L字鋼と竹は針金で括るのが強度を保ちやすく、害虫などの隠れ家になりにくいのでお勧めです。
6.竹の支柱のメリットとデメリット
メリットは3つです。
1つは安価であること。竹林の所有者が持て余しているケースが多く無料でもらえることが多いです。
もう1つは先を尖らせることで地面に深く食い込ませることができます。
最後に抜きやすいこと。支柱はいつか抜きます。L字鋼などは抜くのに苦労しますが竹の場合、抜けなくても竹の根元から折ってしまえば終わりです。
デメリットは2つです。
1つは、腐食すること。土の湿り気などにもよりますが、2~3年程度で地面の中の竹が腐食していきます。腐食に気づかず台風が直撃すると倒木することが度々あります。支柱は1年に一度程度はぐらつきがないか確認して打ち直す必要があります。
もう1つ。大きな成木を移植するときには使えません。L字鋼のような頑丈さはないので、あくまでも苗木を若木に育てて成木になったらオリーブの木自身の根で支えることを前提にした支柱です。
7.竹の支柱の立て方
竹の支柱は木が2m前後までの若木を支えることを前提としています。3m以上の成木は支柱ナシで木自身の根で台風に立ち向かえるよう土を作り木を育てるというのが前提です。
土が痩せていて根が張りにくい土地にオリーブを植える場合はしっかりした2本支柱、土が肥えていて根が張りやすい土地には1本支柱で十分です。
2本支柱の立て方のポイントは基本的にL字鋼と同じです。それ以外の竹ならではのポイントは下記の通り。
立て方のポイント
- 竹は肉厚で細目で節が多いものの方がものの方が頑丈です。ずっしりと重みを感じる竹は最高です。
- 打ち込む前に先端は斜めにカットし尖らせます。
- 尖らせる逆の打ち込み面は節の手前でカットし雨水が溜まらないようにします。
1本支柱は斜めに打ち込んで交差させます。
木のすぐ横にまっすぐ立てる方法もありますが、うちでは害虫のオリーブアナアキゾウムシが根元にいる場合に発見が遅れるので、オリーブの根元から少し離した位置に支柱を打ち込むようにしています。農薬を使用することを前提にする場合は、木の根元にまっすぐ立ててもジャマになりにくくて便利かもしれません。
8.その他支柱に関しての注意点
購入した苗木の写真です。全ての木にこのような紐が食い込んだ跡が残っていました。支柱に木を縛るときに注意することとして、紐はできれば平らなテープ型の方が食い込みにくいということと、手間でも春と秋の年に2回はチェックし、食い込んでいる場合や損耗している場合は新しい紐に付け替える作業はしておく必要があります。木もかわいそうですし。
閑話休題
オリーブ農家になって、そろそろ10年になります。
オリーブを育て始めた頃は、台風が来るたびにハラハラし、倒れた木を見ては落ち込んでいました。
今でも、もちろん台風は嫌いですし、木が倒れると悲しいですが、倒れた理由を冷静に分析することができるようになりつつあります。
木が倒れるのは枝葉などの地上部と土の中にある木を支える地下茎のバランスが崩れていることが多いです。
台風などが日本のように多くない地中海で栽培されているオリーブは、どうしても風に弱い樹木だとは思いますが、土を育て根をしっかり広げさせることで、成木になる頃には台風に負けない木に育てることができると信じています。
若木はどうしても枝葉が根より優先的に育ってしまうので、根がしっかり張るまでは支柱で助けてやるというのが現段階の私の考えです。
若木が倒れたら、頑丈な支柱に替えるのではなく、枝葉をばっさり刈って根とのバランスを取りなおさせます。
成木が倒れるようなら、その土地の問題(風の通り道や湿気が多い土壌)として、あきらめて、伐採しそこにはオリーブを植えません。
そのような理由もあり2018年現在L字鋼を使うのはやめました。基本的には全て竹の1本支柱で若木を支え、土を育てることに注力し、倒れれば枝葉を切るようにしています。
これからも、台風がくればおろおろし、倒れたら起こし、分からないなりに倒れた理由を考える農家でありたいと思います。
□
文と写真 山田典章
オリーブ専業農家。香川県小豆島の山田オリーブ園園主。1967年佐賀県生まれ。岡山大学農学部を卒業後、会社員時代の約20年間に保育園事業などの6つの事業に携わる。2010年に小豆島に移住し、子どものときに好きだった虫捕りが毎日できる有機オリーブ農家になる。好きなものは虫と本と日本酒。オリーブ栽培としては初の有機JASに認定される。山田オリーブ園ではオリーブや柑橘類の栽培、加工、販売を行う。
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