走れメロス
オリーブ畑のモッコウバラ満開。白くて小さな花からいい匂いがする。この野趣あふれるバラは生命力がすごくて、他のバラたちのように手間暇掛けなくても、ひとり勝手にどんどん大きくなって、端の方からオリーブを押しのけそうな勢い。今の時期だけパッと咲いて、後の季節は緑の大きな草みたいに静かにしている。
少し時間が経ったけど記憶に残っている本のことでも。
本を読むようになったのは10歳くらいのときに出会った灰谷健次郎さんの「兎の眼」だった、と書いた。そして、本の読み方を決めたのが太宰治氏の「走れメロス」だった。兎の眼と出会ったのと同じ年、この本には大切なことが書いてあるから読んで読書感想文を書いてきなさいと言われて担任の先生から手渡されたのが「走れメロス」。
読み進めるに従って先生が僕に求めていることがどんどん分かってきて、本当に嫌な気持ちになったのを覚えている。40年以上前に一度だけ読んだお話しなのでうろ覚えだけど、要は友情の話しだったと思う。王様に何故か死刑宣告された主人公が妹の結婚式に出るために親友を身代わりに差しだして走って行って約束を守って死刑になりに帰ってくるみたいな話だったと思う。小学校の6年間で友だちが一人もできなかった僕に先生が友だちの大切さを気づかさせるために読ませているんだということがうすうす分かって、それでもその友情の大切さを感想文に書かなくてはいけないという罰ゲーム。僕はその先生のことがどちらかというと好きだったのだけど、こういうのは本当に嫌だった。
僕はとても大切なことを先生に経験させてもらった、と思っている。
・本というのは、面白い本もあれば、面白くない本というのもあるということ。
・本というのは、面白くても面白くなくても他人に読まされるのはひどく嫌な気持ちになるということ。
・もし面白い本でも読書感想文とセットになると突然読む気力が萎んでしまうということ。
あれから40年以上本を読んでいるけど、あのときから誰かから読めと命令された本は1冊も読んでいないし、読み始めて面白くないと思ったらそれ以上読まないし、役に立ちそうな本は極力読まないようにしている。
本は楽しむもの、ということを教えてくれた大切な一冊「走れメロス」。
こんな不幸な出会いをしていなければ違ったのかもしれないけど僕は「走れメロス」以外の太宰の本を1冊も読んでいない。
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