ハマキムシの大量発生でオリーブの実が大きな被害を受けた1カ月のこと
2012年の10月というのは僕にとって忘れることができない1カ月である。
農家になって3年目。
オリーブの実を初めて収穫ができそうになったのに、突然、害虫のハマキムシが数万匹大発生し、せっかく生った実がどんどん食べられる。
今でも夢に見てうなされることがあるくらい恐ろしい経験だった。
と同時に農家の面白さを実感できた1カ月でもあった。
ハマキムシの生態を知る上でも参考になることがあるかもしれません。ご興味がある方はどうぞ。
2012/10/03 最初のハマキムシを発見
今秋初めてハマキムシ「マエアカスカシノメイガ」の幼虫を発見する。なんと既に三齢幼虫。
孵化を見逃した可能性が高いかもということで、丁寧に他の木をチェック。するとようやくぽつぽつと一齢幼虫を視認。
ちなみにマエアカスカシノメイガの幼虫が孵化する時期は、彼岸花の開花期とタイミングが同じくらい。
大量発生を見逃した訳ではなさそう。本日10/3が初期発生みたいなので、やはり昨年より1週間ほど発生は遅い。
いよいよオリーブの実を虫と人間が奪い合う季節が始まる。
2012/10/08 ハマキムシが爆発的に発生する
例年より1週間遅れで「マエアカスシカノメイガ」の大量孵化が始まった。1本の木に平均40匹くらい。写真には手前の黄色いのが1匹、その奥に茶色のが1匹いるのが分かるだろうか。1ミリにも満たないが、これらがどんどんオリーブの葉を食べて大きくなっていく。
ざっと計算して40匹×400本=16,000匹のハマキムシの大量発生。
こういう計算をすると気が遠くなって、もう好きにしてくれという投げやりな気持ちになる。でも3年目なので分かっている。とにかく1匹でもいいから捕殺し始めることが大事。全部捕ろうなんて考えずに1匹1匹。
最低でも1日1,000匹は潰していく。手がハマキムシの緑に染まる。
頭を真っ白にして捕殺を続けていると、ふと目に飛び込んできた光景。アズチグモがハマキムシを食べている。おーグッジョーブ!アズチグモ大好きだ。
こっちは成虫のハマキガを捕まえているアズチグモ。アズチグモのことを同志と呼びたい。
孤軍奮闘しているつもりだったけど、いつの間にか仲間がいた。
農薬の替わりに人間がひたすら手で捕るだけではなく、多くの虫たちと一緒に畑の中に食物連鎖を作っていくこと。
クモのような天敵をばらまくような有機栽培があるらしいが、そういうのは虫を薬みたいに使っている時点であまり好きではない。それに持続しないし。
ハマキムシも食べるクモが自然に暮らしていけるような畑の環境を整えることが人の役割だと思う。
とにかく一人じゃないことに勇気づけられつつ、それでも1日千匹、ハマキムシをひたすら潰していく。
2012/10/09 卵を産み続ける成虫を捕殺せねば
2日前から徹底的にハマキムシ(マエアカスカシノメイガの幼虫)の捕殺に明け暮れている。
最低でも1日千匹。
しかし、減った気がしない。なぜだ?
ふと理解する。
そうだ。幼虫を潰して潰しても、ハマキガのメスがオリーブにやってきて卵を産み付けていく。
きりがない。
卵を産む成虫のメスを何とかしないと、いくら幼虫を潰しても意味がない。
幼虫であるハマキムシを1匹1匹捕殺するより卵を産む成虫を1匹捕殺するほうが、もちろん効率的。
何とか飛び回る成虫を捕殺したい。しなければならない。
そこで、とにかく1日中メスを追い回し続ける。
そしてハマキガを捕殺する10の方法を会得する。
- オリーブの見回りをするときは木の葉に触りながら見て回るといい。ハマキガが人間に驚いて飛び出してくる。
- 最も捕殺しやすい時間帯は早朝。日の出前後。気温が低いのでハマキガの動きが緩慢で捕殺しやすい。
- 飛び出したてきたら視線が切れないように移動しながら次の落ち着き先をしっかり目で追うこと。
- 次の落ち着き先が分かったら1回深呼吸すること。すぐに近づくと過敏になっているハマキガが、もう一度飛び立ってしまう。
- 地面の下草に隠れたらラッキー。なぜか地面は落ち着くみたい。そおっと近づき足で踏み潰すのと逃げられにくい。踏み潰すアクションは剣道でいうところのすり足からの飛び込み面。
- 木の葉に止まった場合は、できるだけ静かに近づきハマキガの目とこちらの間に障害物である葉っぱがあるのがベター。直接、目が合うとすぐに逃げるので。
- ゴムが付いた手袋をムチのようにしならせて葉っぱごとハマキガをぴしっと打つこと。ゴム手袋の一番長い中指の先っぽあたりを当てるのが最も効果的。ちなみに両手でパチンは、ほとんど失敗する。
- ハマキガが葉ではなく大切な実に止まっているときでも躊躇せず打つこと。確かに実が数粒落ちてしまうが何百匹も卵を生む成虫1匹を捕殺する方が正解。勇気を持って。
- 手袋で打っても気絶しているだけなので速やかにトドメを刺すこと。
- もし失敗したら、どこがまずかったのか自分の行動を振り返って何かを学ぶこと。
僕は現在、飛び出してきたハマキガを捕殺できる確率は、ほぼ6割。達人への道は、なかなかに険しい。
(ここだけ2年後の追記)2014/09/30 ハマキガを10割捕殺する道具の発見
とりあえずいつも付けているゴム手袋でハマキガを捕獲していたが、もう少し効果的な道具がないか色々試してみる。
右から細い鉄線、ロッド、補虫網、バトミントンのラケットなどなどの中では結果的にバトミントンのラケットが最高に使いやすい。
なんだったら飛んでいるハマキガですらスマッシュして叩き落すことができるくらい。
しかし、ラケットも少し弱点がある。網が張ってある面積が広すぎ、かつ枠が固い鉄なのでオリーブの実を一緒に叩き落してしまうことが何度もあった。
網の面積がもう少し小さくて固い枠がないような道具があれば最高だろう。
試行錯誤を始めてから2年後、捕殺率を6割から10割に上げる道具を発見する。
その名もハマキガタタキ。
なんと長さも叩くとのころの大きさも絶妙にいい具合。
使ってみるとマエアカ蛾の撃墜率ほぼ100%と信じられないくらいの数字を叩き出す。(28匹中27匹撃墜)
ちなみにアマゾンに購入する場合の名称はハエたたき。
2012/10/17 ハマキムシが天敵食べられないのはマズいからか
何万匹というハマキムシがいるわりに、たまにクモ類が食べているのを見かけるが、どんどん天敵の虫に食べられている感じもしない。
こんなにきれいな緑色をして柔らかそうな虫なのに何故食べられない?
不思議。
もしかするとハマキムシの主食であるオリーブの葉に含まれるオレウロペインの苦みが強くて虫たちが嫌っているのかもしれない。
確かめるには食べてみるか。
食べてみた。生きたままの新鮮なやつ。
味の感想;冷たい→うっすらメロンのような甘み→草っぽい香りが鼻に抜ける→ほんのりした苦味
個体によって味に違いがあるといけないので5匹食べてみた。ほぼ同じ。苦味が全く無いのと少し残るかなくらいの違いはあるが。
オリーブの葉を食べていたハマキムシが、ほとんど渋くないという事実。オリーブの葉の苦味成分オレウロペインがハマキムシの消化器官から生成される何らかの酵素によって分解された可能性があるのかもしれない。
あくまでも仮説だけれど、その酵素を使えばオリーブの渋みを消すことができるかも。
全く関係ないがこの当時、苛性ソーダ以外でオリーブの実の渋みを消す材料を探し回っていたので、虫が持つ酵素で渋味が消せることが分かったのは発見だった。
で脱線ついでに。柑橘類などで使用される市販の特定の酵素を使用するとオリーブの渋味が消せることも後日実験して判明する。また発酵によっても同じように渋が消せる。例えば、納豆菌、ヨーグルトの乳酸菌、米ぬかや麹菌も使える。日本酒で渋抜きというアイデアもこのハマキムシを食べたことで発見することになったが、このハマキムシ退治では関係ない話。
2012/10/28 ハマキムシが天敵に食べられない本当の理由
毎日、千匹を目標にハマキムシを捕殺するのだが、なかなか難しい。
秋の日はつるべ落とし。
日が暮れると手元が暗くなるのでハマキムシの捕殺効率が落ちてしまう。
しかし目標の千匹まであきらめる訳にはいかない。
暗くなっても探して潰していたら、不思議なことに気づく。
それが、この写真。
枝の上をのびのびとハマキムシが這っていく。昼間には見られない光景。
そうハマキムシは夜行性であるらしい。日中は葉を巻いた中でじっと動かず、夜になると、元気に出てきて葉をむしゃむしゃ食べている。
ハマキムシが天敵に襲われにくい理由は、この虫が夜行性であったから。
夜に活発に捕食するのは、やはり我らがアマガエル。この男前のアマガエルくん、冬眠しないで丸々太ったハマキムシをばくばくたべておくれ。
2012/10/30 虫たちとともに~子どものころの夢~
今年はルッカが不作な上に、ハマキムシの被害が甚大なため収穫がゼロになる可能性が出てきた。一粒でも守れる実は守るため、今日もハマキムシの捕殺を続ける。
一日中、ハマキムシの捕殺に没頭していると、頭が真っ白になって体だけが勝手に動いているような状態になる。
自分がハマキムシを狩る一匹の虫になったような感覚。
すると、不思議なことが起こる。
ハマキムシを捕っているとふらっとクロスズメバチがやってきた。威嚇したり刺したりすることもなく、ぼくの周りを飛んでいる。
ふと「それをくれ」とささやかれた気がした。なんとなく手を掲げる。
するとクロスズメバチが、ふわっと飛んで手に乗ってきた。
ハマキムシが欲しかったみたい。
しっかり口にくわえる。
なんとのんびり僕の指の上で、ハマキムシの肉団子を作り始める。
肉団子ができたら礼もいわずに空に消えてしまった。
虫たちがたくさんやってくるオリーブ畑では不思議なことが起こる。
カマキリが肩にとまってみたり。
休憩しているとアシナガバチがズボンにとまってじっと僕を見上げていたり。
肉食系の虫たちが集まってくるのは僕が潰しているハマキムシの匂いに吸い寄せられているからだと思う。
何しろ一日で数千匹のハマキムシを素手で潰している。全身、ハマキ汁を浴びており特定の虫たちからすると、たまらなくいい匂いがしているのかもしれない。
そのうちトンボまで。オニヤンマなら肉食でハマキムシくらい食べるかもしれないけど、アキアカネは小さい羽虫しか食べないのにどうしたんだろう。
これはタテハチョウ。機敏で人間が近づきにくい蝶までやってきた。花の蜜や樹液を好む蝶がハマキムシの匂いに惹かれるとも思えないが。
そしてとうとうハマキガまで。自分からやってこられるとさすがに殺しにくい。
何か色んな虫がやってくるうちに、人間感が薄まったんだろうか。
理由はなんであれ虫と会話してみたいという子どもの頃の夢が突然叶ってしまった。
オリーブの実をハマキムシから守ろうと悪戦苦闘した1カ月も無駄じゃなかったみたいだ。
この後、毎日の捕殺の成果と気温の低下によるハマキムシの活性が下がったことにより、徐々に被害が沈静化し、だいぶ食べられてしまったが、それでも何とかオリーブの実を収穫することができた。
2012年の10月は今でも忘れられない1カ月である。
ちなみにこのときハマキムシから死守して収穫した実は結局、塩漬けにもオイルにもなることはなかった。その話しはまた別の機会に。
鹿児島県出水市のオリーブ園の岩尾と申します。ブログを大変参考にさせていただいております。
うちのオリーブ園ではハマキムシ系対策の主軸は蜘蛛と蟻と鳥です。鳥について述べさせていただきます。
つい先日もハクセキレイが飛び立ったチャノホソガを空中で捕らえるのを目撃しました。
うちの園を領地にしているハシボソカラスの家族はオリーブに蹴りを加えて落ちてきた虫を啄んでいます。たぶん蜘蛛も喰われていますが。
ジョウビタキやシジュウカラ、ムクドリ、ツグミも群れで訪れてオリーブの枝にとまって虫を啄んでいます。
マエアカスカシノメイガ対策では以前はBT剤のデルフィンやサブリナフロアブルを散布していたのですが、鳥が群れだしてからはBT剤散布もしなくなっています。
モズもいてアマガエルやバッタのはやにえだらけです。時々チョウゲンボウも急降下してきます。たぶんバッタか何かを狙っているのだと思います。
成虫のハマキガのほとんどの種類は昼間に飛ぶものが多いので鳥たちのエサになることも多そうです。
野鳥が多いということはそれだけ畑に虫の数も多いということですね。
鳥が沢山やってくるオリーブ畑うらやましいです。うちは冬の間は山から沢山下りてくるのですが、春になって山の食べ物が多くなると、ほとんど帰ってしまいます。