脱サラして農業を始めて良かったこと5つ・良くなかったこと5つ
東京で20年ほどサラリーマンをして40歳で会社を辞めて妻の実家がある田舎で農業を始めました。
瀬戸内海の小豆島でオリーブ農家になって10年目。最近、増えている脱サラ農業田舎暮らしをしてみて良かったこと、良くなかったことを振り返ってみます。
良かったこと 1)人とのコミュニケーションストレスが減った
サラリーマンは多かれ少なかれ人と接するのが仕事だと思います。
私の場合、教育系の会社の社員でしたが、パソコンに向かっているとき以外は、誰かと話していました。厳密にはパソコンに向かっているときもメールのやりとりなどほとんどはコミュニケーションが仕事でした。
ほとんど仕事の話しと仕事を円滑に進めるための雑談です。今考えてみると、アイデアを考えるための時間なんて1日に数分くらいで、後はひたすら、仕事を回すために人とコミュニケーションをとっていました。
今は、夫婦二人で農業をしているだけなので、仕事に関するコミュニケーション時間は、ほとんどありません。
人と話しをすることが好きな人にとっては良いことではないかもしれませんが、私のような人間にとっては、とても楽です。
テレビに映ったアーモンドの花を観て、そのままネットでアーモンドの苗木を買い、翌週には畑に植えてアーモンド栽培を始めるみたいなことが、ほとんどです。
もし会社員時代なら、アーモンドを育ててみたいことを上司に相談して内諾をもらい、提案書を書き、諸々の根回しをして、会議で正式な事業計画の承諾を得て、アーモンドの栽培方法を研究し、販売のための市場調査をして、予算をもらい・・・早くても1年後くらいにアーモンドを植えていました。
多分、思いついたことをすぐに行動に移すことの10倍くらいのコミュニケーションが求められていたような気がします。最近の伸びている会社は違うのかもしれませんが。
良かったこと 2)仕事と生活が1つになった
サラリーマンのときは公私がはっきりしていました。
会社で仕事をしているときは公、会社を出れば私プライベートと一応場所が変わります。そして、月~金は仕事、土日は休みというように曜日や時間でも線引きが明確でした。
しかし、農家になったら農作業と生活がエリア的にも時間的にも一緒になります。
一応、日が昇って日が暮れるまでは畑仕事がメインですが、途中で昼寝することもあるし曜日も関係ありません。日曜日なので害虫が休むことはないので、春夏秋はずっと暮らしの真ん中に畑仕事があります。
仕事は一人でやっていることが多い私の場合、ペース配分が自由なので、休みたくなれば勝手に休みます。植物は、少々手を抜いても文句は言いません。
それに日が暮れれば休めるし、収穫の繁忙期などは肉体的に疲労しますがお酒飲んで風呂入って寝ると元通りです。
仕事と暮らしが一緒の暮らしは、私個人にとっては、とても無理がないというのが実感です。
良かったこと 3)結果が分かりやすい
うちはオリーブ農家をやっています。オリーブの木の世話をして、1年に1回実を収穫して、それをオリーブオイルにして、直接お客さんに販売して、お金をいただいています。
実の収穫量は目に見えますし、オイルの量もグラム単位ではっきりしていますし、何本売れていくらになったのかも分かります。
沢山売れれば家族で旅行に行けますし、売れなければ壊れたテレビの買い替えを我慢します。
実が沢山採れるかどうかは自分の責任です。他人の責任ではないので採れなくても誰も責めませんし責められません。嫁さんは少しは何か思うかもしれませんが。
自然災害などで被害が出ると悲しいですが、人のやったことではないのであきらめも早いです。
サラリーマンのときも、数字が全てだ!とか言われてましたが、実際はたまたまうまくいくことや、たまたまイマイチなことも多かったけど、よく分からないまま毎月給料をもらっていました。
成果が分かりやすいというのは精神的にすっきりします。
良かったこと 4)何でも自分でやる
平成元年に社会人になりました。バブルの最後くらいの時期で年号は平成でしたが会社の雰囲気や仕事のやり方は昭和でした。
新人はひたすらコピーを取るとか、会議室の机を並べるみたいなことから始め、徐々にパンフレットを任されたり、企画書を書いたり、年齢とともに複雑なことを任さられるようになりました。色んなことができるようなって大きな組織で働いているうちに、いつの間にか仕事の一部だけをしていることに気づきました。
お客さんと会うことはないし、コピー1つ取らないし、パソコンが壊れても誰かが直してくれました。最後は自分のゴミ箱のゴミすら集めてくれる人に任せていました。で、自分はひたすらパソコンに向かってパワポの資料だけを作っていました。
今は畑をユンボで開墾し、苗木を植えて、世話をして、実を摘んで、搾油機で搾って、ボトルに入れて、ホームページを作って・・・全部自分でやります。農業も毎日毎日、草抜き担当になって草ばかり抜く仕事だったらしんどいですが、草も抜けば、ボトルのデザインを考えて、債権管理もします。効率は悪いかもしれませんが飽きません。
良かったこと 5)家族との時間が増えた
きれいごとみたいで気が引けますが家族と一緒にいる時間は増えました。
サラリーマンをしていたときは、通勤時間が片道1時間半くらいだったこともあって、日が昇る前に家を出て、日が変わる前に帰宅していました。
平日は、子どもと接する時間はほとんどなく、休日の1日は休み、残りの1日で家族とがんばって遊んでいました。
東京での生活は物理的に時間が常に足りておらず、いつも優先順位を付けて何かをしていたような気がします。
田舎で農家をやると、まず単純に通勤時間というのは限りなくゼロになり毎日3時間がプラスされて、日が暮れたら仕事をしないので更に3時間、計6時間くらいは余ります。
6時間余計に家族といられます。ただし、私にとっては良かったことですが、家族のとっては良かったことでない場合もありますので注意が必要です。
良くなかったこと 1)お金の心配をする
やはりそうは言っても会社員のときにもらっていたくらいの給料を農家になって稼ぐのは大変です。
特にうちは夫婦ともに仕事をしていたので収入は大幅に減りました。
金額だけでなく、サラリーマンは基本的には何をやってもやらなくても、毎月1回お金が銀行口座に振り込まれます。
うちのような単品目の果樹農家は、1年に1回の収穫の売上だけが生活費の全てです。
そして、自分が病気になって体を動かせなくなるだけで収入はなくなります。
もしくは台風の直撃1回で全滅みたいなことも起こります。
自分の1年の努力とは無関係にそういうことが起こるのも農業です。
会社員をしていた頃は、自分はお金にほとんど執着しない人間だと思っていましたが、執着しなくてもお金が入っていたというだけのことでした。
とても単純なことですが、電化製品は壊れるまで使いますし、服などは極端に買わないし、トイレットペーパーの減り具合が気になったりするようになるから可笑しいです。
良くなかったこと 2)逃げ場がない
小豆島は人口が3万人足らずの島なので、基本的にほとんどの人とは面識がありません。
ですがゲオで借りるDVDに制限がありますし、病院で胃カメラを呑んで涙ぐんでいるところを息子の同級生のお母さんに助けられますし、スーパーマルナカのレジのおばさんも知らない人ではなかったりします。
気のせいかもしれませんが、常に誰かに見られているような気がします。
東京では会社の帰り、ふらっと新宿に行けば知っている人に会うことは、ほぼありませんでした。誰も知らない誰からも興味を持たれない自由というのは田舎に暮らすと、とても貴重なものだったことを思い知らされます。
そう田舎は逃げ場がありません。もしくは息抜きができません。
小豆島に移住するまで、すっかり忘れていました。高校生のとき故郷の佐賀を脱出してやるぞと決意したのは誰も知った人がいないところで、自由気ままに暮らしたいからでした。
この件は、本当にうっかりしていました。
良くなかったこと 3)わがままになる
農家なので農家同志のつきあいが少しはあります。農家というのは家族だけで農業をやっている個人の農家がほとんどです。
そして、その農家のおじさんたちは、驚くほどわがままな人が多い気がします。
ちなみに、農業をしている会社のサラリーマンファーマーの人たちは、わがままではありません。普通です。
新規就農した頃は、何で農家のおじさんたちがこんなにわがままなのか分かりませんでした。
でも自分も10年やってみて分かりました。
個人農家は、基本的には誰からも怒られません。注意されません。指導されません。否定されません。
好きなことを好きなようにやっているのが個人農家です。
サラリーマンは、偉くなっても、更に偉い人はいます。否定されることもあります。自分以外の人から謙虚さを求められます。しかし、個人農家はある意味王様なのでわがままになります。
人の言うことを聞かずに好きなことだけをやっているので、私の中のバカが日に日に育っているような気がします。
良くなかったこと 4)視野が狭くなる
まず農業というのは99%肉体労働です。頭も使いますが、必ず体を使って物理的に何かを変えないと結果は変わりません。
考えているだけという状態はサラリーマン以上に農家にとっては、致命的に無意味です。
つまり、圧倒的な単純作業の繰り返しが求められる農業では、作業だけに没頭し、汗を掻くと充実感も得られるので、頭を使わなくなりがちです。
良かったことで最初に挙げたコミュニケーションの減少も人間社会との乖離につながることがあります。
そしてわがままなので人の話しも聞きません。
畑と自宅の往復だけを繰り返していると、たまに都会からきた人と話しをすると、びっくりするくらい刺激を受けることになります。
オリーブ畑だけの暮らしは刺激が少なく、いつの間にか狭くなっていた自分の視野に反省させられます。
良くなかったこと 5)夫婦での役割分担を考える
良くなかったことというより、農業を始めて試行錯誤したことです。
それは夫婦の役割分担。
うちは夫婦二人だけの農家です。
サラリーマン時代に結婚し、長らく共働きを続けてきました。
その夫婦が、突然、仕事のパートナーになります。
一般的な個人農家は朝起きてから昼の畑仕事、晩ご飯までずっと一緒に暮らし仕事をします。
農家とはそういうものなので、そうするものだと最初は思い込んでいました。
そうすると仕事の職場関係が家庭に持ち込まれることになります。
暮らしと仕事が混然一体になる農家は、夫婦が一日中一緒にいることになります。
夕食中にテレビを観ながら仕事の話しが出ます。雑談レベルでなく会議室レベルの話しまですることもあります。
会社員時代の仕事でも二人だけのプロジェクトは煮詰まりやすくなりました。
そこで試行錯誤を重ねた結果、それぞれが得意な役割を分担することにしました。
例えばオリーブオイルを搾るのは夫だが、品質のチェックは妻がするとか。
販売は夫で、税務は妻とか。
今でも役割分担の修正をしながら試行錯誤しています。
ここは唯一のパートナーとして、キチンと話し会い続けることが大切だと思います。
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