農業を面白くできないか
2022年が始まる。
年末から各地を転戦し自分の畑に帰ってくる。
日本各地で見てきたオリーブは雪の有無に関わらず寒風の下、その生命活動を限りなく小さくして春を待っていたのだが、うちの畑のオリーブたちは透明な冬の日差しを浴びて生き生きと風に揺れている。
早朝こそ冷え込むが昼下がりになれば、小さな白い花を付けたハコベにミツバチやテントウムシがやってくる。その虫や採り残したオリーブの実を食べにジョウビタキやメジロが梢を渡っていく。
小さな虫や雑草が活動する畑のオリーブは冬でも眠ることはない。瀬戸内海の温暖な気候だからこその恵とも言えるが、うちの畑でも新しく始めた畑は土が痩せていて冬枯れするイネ科の草が覆っていたせいで茶色く枯れている。除草剤を多用している島の清耕栽培の畑も冬はほとんどの生命活動が休止する。
僕が農家としてオリーブにできることは、直接オリーブに働きかけるのではなく四季に咲く下草や大小の生き物が暮らしやすい環境を作ること。
久しぶりに色んな人と話しをする機会があり、珍しくマジメに農業のことを考えながら島に帰ってきた。
自分の頭で考えることを止めて儲からない農業を続けてきた農家は歳をとり、そろそろ退場していく。かといってSDGsやファッションのようにオーガニックを語る頭でっかちの都会からの就農者がこの現状を忍耐強く変えていけるとも思えない。国が推進する大規模化や機械化、6次産業化、スマート農業などというAIやロボットなどの最新技術は更に農業をつまらなくしていく。
日本のほとんどの消費者は、自分たちが毎日食べているものがどこで誰がどのように作ったかなんて考えるほど暇じゃない。それなりの味がして養分が補充できる食べ物であればそれでいいと思っている人がほとんどなのだろう。一番大切なことは安くていつでも手に入ること。でも、それは悪いことじゃない。であれば、僕ら農家はもう少し農業を自分のために面白くしていいんじゃないかと思う。とにかく安くて野菜や果物に見えるものを効率的に作るために野外で単純肉体労働を続けることから逃れられないか。
別に有機農業が面白いとは言わない。面白いことはひとそれぞれだから。ドローンの操縦が好きなら徹底的にドローンで農業をやってみてもいい。プログラミングが好きなら野菜の味をコントロールするシステムを開発してもいい。ワインが好きなら自分が飲みたいだけのワインを作るためにブドウを育ててもいい。僕みたいに虫が好きなら年中虫捕りをしていたっていい。顔の見えない誰かために効率的に忍耐強く働くのではなく、ただ自分が面白いと思うやり方でやりたいようやる農業。
楽する農業ではなく、苦しい農業でもない、面白いと思う農業。
日本人の中にはそんなに多くはないけど、自分の仕事を面白がっている農家の食べ物を買ってみようという変わった人たちが少しずつ増えているような気がする。
明けましておめでとうございます。今年も、投稿を楽しみに、高松でオリーブのせわをしています。
『日本人の中にはそんなに多くはないけど、自分の仕事を面白がっている農家の食べ物を買ってみようという変わった人たちが少しずつ増えているような気がする。』
高松市では、まだ少ないですが、神戸や大阪では、僕も同じ事を実感しています。
まだまだ朝晩冷えますが、お風邪などめさぬよう、ご自愛下さいませ。