都会で暮らしていた頃、空は抽象的もしくは心象的な風景の一部だった。
今日もいい天気だなとか、雨降りそうだから傘持っていくかとか。
農業を始めると空は人間やオリーブに直接影響を与える物理的な自然の一部になった。
日が昇ると隠れてしまうゾウムシを探すには、東の空の端がうっすらと白む頃に畑に立っておかなくてはいけない。
雨が降ると木が喜ぶ。冷たい雨に濡れると人間は弱る。
農家は空ばかり見ている。寒霞渓に掛かる雲一つを恐れる。
空は地面に這いつくばっている生き物を支配している。
何かの予兆は空からやってくる。